15-6 謝り合いっこ

 サチは翌朝、アキトを連れ帰ることなく、逃げるように龍山荘を後にした。

 最後までアケミとは目も合わせようとはせず、アケミの方もサチにどう言葉を掛けていいのかわからない様子だった。


 マサヒロに続いてサダオとサチが押しかけ、ここ数日てんやわんやだった龍山荘に静寂が訪れた。

 怒涛のような日々が過ぎ去り、アキトはボウッとその場に佇んでいた。


「アキト、これからアキトはどうするつもり? やっぱり東京に戻るのか?」

 ケンシロウに問いかけられ、アキトは我に返った。

「え? ああ、そうだなぁ。わからない。先のことはもう少しじっくりと考えたい」

「……そうか」

 ケンシロウは短く返事をしたものの、アキトのそばからなかなか離れようとしない。


「ケンシロウ?」

 アキトが問いかけると、ケンシロウは耳を赤く染めながらアキトのTシャツの袖をつんつん引っ張りながらボソッと謝った。

「ごめん、アキト。オレ、アケミさんのことずっと隠していて」

 いじらしいケンシロウは、ずっとアキトに隠し事をしていたことを心苦しく思っていたらしかった。

 アキトは優しくケンシロウを抱き締めた。

「謝るな。俺の方こそケンシロウに負担をかけたな。お前の一人抱えている悩みも訊かずに、勝手に突っ走って。お袋のこと、本当は俺が全部引き受けないといけない問題なのに、お前に全てを背負わせてしまった」

 すると、ケンシロウは首を横に振った。

「仕方ないよ。アケミさんはアキトには実の親子であることを隠したがっていたし。オレが勝手に勘付いて問いただしただけだから」

「そんなことない。お袋のことを見抜けなかった俺が間抜けだったんだ。ずっとケンシロウはお袋のことを気にかけてくれていたんだろ? それなのに、東京に戻ってマサヒロ君と一緒に暮らそうだなんて言い出す前に、お前の意向ももっとちゃんと訊くべきだった。すまん」

 アキトが謝ると、ケンシロウはもう一度首を横に振った。

「兄ちゃんのことも、オレも悪かったんだ。兄ちゃんが龍山荘まで来て、ちょっと頭の中が混乱しちゃって。ずっとオレは家族に棄てられたと思って生きて来たから。だから、突っ張ってアキトに八つ当たりした。ごめん」


 さっきから互いに謝り合ってばかりな気がする。アキトは苦笑してケンシロウの頭を優しく撫でた。

「もういいよ、ケンシロウ。謝り合いっこはもうおしまい。今日は少しゆっくりしよう。ケンシロウも気疲れしただろうし」

 すると、ケンシロウは頬を赤く染めながらおずおずとアキトに次のような頼み事をした。

「わかった。でも、休憩しながらオレに教えて欲しいんだ。兄ちゃんがアキトに何を言ったのか。オレ、結局兄ちゃんに何も訊けなかったから」

 そんなことか。そのくらい、お安い御用だ。

「ああ。いくらでも訊かせてやるよ」

 そうアキトはニッコリ微笑んで頷いた。

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