14-5 マサヒロの優しさ、アキトの優しさ

「でも、僕はそんなケンシロウを最後まで助けてあげられなかった。ただ自分が両親に嫌われないようにするのに必死で。ケンシロウが高校を辞めて家を出て行ったと知らされた時、僕は自分のせいだと思った。ケンシロウの辛そうな姿をそばで見ていた癖に、何も出来なかった不甲斐ない自分のせいだって。だから、どうしてもケンシロウに謝りたかったんです」

 苦し気に語るマサヒロの横にアキトは移動し、彼の肩を優しく叩いた。

「じゃあ、ちゃんと想いは伝えないとね」

「でも……」

「大丈夫。俺も協力するし」

「……本当にすみません……」

 マサヒロは小さくそう言ってアキトに頭を下げた。


 そして、ポツリとこんなことを呟いた。

「僕は罪滅ぼしのためにもケンシロウが望むなら、高校ももう一度通わせてあげるつもりでいたんです。幸い東京での僕の就職先も決まり、来年からはそれなりに経済的余裕も出来ますし。でも、今ではケンシロウもこうしてアキトさんと穏やかな日常を育んでいる。僕の出る幕はなかったということですね……」

 マサヒロはとても淋しそうだった。


 アキトは思った。

 三年間ずっと弟を探し続けたマサヒロはどういう心境だったのだろうか。

 ずっとケンシロウへの贖罪の念を持ちながら、何処にいるとも知れない彼を探し続ける日々は相当辛かったに違いない。

 ケンシロウの面倒をきちんと見たいというマサヒロは、何よりももう一度ケンシロウとの兄弟としての時間をやり直したいと思っていたのだろう。

 それならばマサヒロがケンシロウへの想いを伝えられたとして、そのまま彼を一人で帰してしまうのはどうなのだろう。


 アキトは居ても立っても居られずに、マサヒロに一つの提案をした。

「俺たちが東京に戻ってマサヒロ君と一緒に暮らそうか?」

「え?」

 マサヒロは驚いてアキトの方を振り向いた。

「本当は兄弟水入らずで過ごすのがいいんだろうけど、俺もさすがにケンシロウと離れて暮らすのは嫌だ。だから俺がついていくのは我慢して欲しいんだけどね」

 アキトがそう苦笑して言うと、マサヒロはパッと顔を輝かせた。

「そんなことが叶うのなら、こちらからお願いしたいくらいです。アキトさんも一緒ならケンシロウも心強いだろうし」

「よかった。それなら……」

「でも、ケンシロウはここでの生活が気に入っているんでしょう? 僕なんかのために東京に戻る気になるかどうか……」

「そんなこと、俺があいつを説得してみせる」

 アキトはそう言ってマサヒロに大きく頷いてみせた。


 せっかく自分たちを雇ってくれたアケミに対する申し訳なさもあったが、ここは家族とやり直したいというマサヒロの想いをアキトは優先してやりたかった。

 何とか次の働き手を探し、アケミの負担は必要最低限にすれば彼女にそこまで大きな迷惑もかからないだろう。

 最初はケンシロウも反発するかもしれないが、マサヒロの想いが通じればきっとうんと言うはず。

 アキトはそんなことを考えていた。

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