9.Side アキト ー奥深く繋がってー
9-1 変化したフェロモンの香り
アキトは最低限の着替えをリュックに詰めると、ケンシロウのアパートへと二人で向かった。
「本当に、あれでいいんだよね?」
ケンシロウは心配そうに何度もアキトに確認を取った。
「ああ、あれでよかったんだ。何も後悔はしていないよ」
アキトは優しくケンシロウに微笑みかけた。
と、その時だ。
アキトの嗅覚に何処からか甘くて優しい香りが漂って来たのだった。
「ケンシロウ、なんかいい匂いがしないか?」
そうケンシロウに尋ねたアキトは、彼の顔がほんのりとピンク色に染まり、目がとろんと潤んでいることに気が付いた。
その瞬間、アキトの胸がドキドキと激しく波打ち始めた。
「お、オレ、発情期が来たみたい……」
ケンシロウは恥ずかしそうにそう言った。
アキトは驚いた。
こんな優しい香りは今まで一度も嗅いだことがなかった。新宿二丁目で初めてケンシロウに出会った時は、甘くももっと鼻の奥を刺激するような、強烈な香りであったはずだ。
こんなに甘美な香りは生まれて初めて嗅ぐものだ。
「でも、何かおかしいんだ。今までの発情期だったら、もっと身体中が苦しいくらい熱くなって、気持ちいいものじゃなかった。だけど、今は何だかとっても心地いい。何でだろう?」
ケンシロウはアキトに顔を擦り寄せながらそう言って甘えた。
そこでアキトは思い出した。
番が成立した後、
フェロモンの質が変化するということは、発情期の質自体も変わるのかもしれない。Ωの命を縮めるような激しく苦しいものではなく、もっと愛の溢れる優しい感覚に。
そう思うと、発情期を迎えたケンシロウが愛おしくてたまらなくなる。
「今日は俺、もう我慢出来そうにないよ。ケンシロウのこと、俺の好きにさせてくれないか?」
アキトがそう頼むと、ケンシロウは顔を赤くしたまま頷いた。
「い、いいよ」
もう、発情促進剤の副作用もすっかりよくなったようだ。今夜は心おきなくケンシロウを大切に包むように抱くことが出来そうだった。
ケンシロウのアパートに着くと、二人はそのままベッドに直行した。
アキトはケンシロウを優しくベッドに寝かせ、その唇を奪った。
最初は唇と唇を優しくチュッチュッと小さな音を立てながら重ね合わせ、気分が高揚するに従って上唇と下唇の間に舌を滑り込ませていく。
アキトとケンシロウの舌がちょんちょんと触れ合う。
「あんっ」
小さなケンシロウの喘ぎ声が可愛くその可憐な唇から漏れた。
キスだけで喘いでしまうなんて、何と愛らしいことだろう。
アキトはそんなケンシロウの姿が愛おしくて、夢中になって彼の舌に自分の舌を絡ませた。
唾液と唾液が絡まり合い、官能的な響きを二人の耳に届けていく。
温かく柔らかい舌が唇が二人の神経に優しい感覚を与え続けた。
キスに夢中になりながらも、アキトの心はケンシロウへの深い愛情に満たされていた。
あのクルージングスポットで初めて身体を重ねた時は、もっと暴力的なまでの性的衝動に襲われたのに、今はひたすらこの愛しいケンシロウを気持ちよくさせてやりたいという一心だった。
どうやら番が成立すると、フェロモンを受容するαの反応にも変化が生じるらしい。
アキトは舌を次第にケンシロウの唇から離し、今度は首筋へと這わせ始めた。
「ああ、気持ちいい」
悩まし気な声を上げるケンシロウの髪を優しく撫でながら、その小さくも形の整った耳に舌をあてがった。
「ああん! そこ、やばい……」
一際大きな喘ぎ声を上げ、身体をピクピク反応させるケンシロウは、耳が性感帯らしい。
集中的にケンシロウの耳を舐め上げてみる。
「だめ、だめだって……。耳だけでイッちゃいそうだ」
ケンシロウの顔が一段と上気し、快感に目をギュッと閉じてしまう。
「今イッちゃつまらないよ。もうちょっと我慢して。それに、俺の顔、見て」
アキトが優しくそう囁きかけると、ケンシロウは必死に目を開けてアキトの顔を見ようとした。
そんな素直で純粋なケンシロウがアキトは可愛くてたまらなかった。
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