第52話 クルトハルト
「さすがですね、クルト。そうそうないことですが、たしかに今回のルイーゼのように武器が壊れることはありえます。それに備えて予備の武器を用意しているとは……感服しました。私も見習わなくては」
褒め過ぎな気がするけど、たぶんラインハルトの場合、本気で言ってる。ちょっと照れるな。照れるといえば、ラインハルトが僕を呼ぶ時“さん”を付けなくなった。パーティ名が『融けない六華』に変わった後、ラインハルト本人から呼び捨てして良いのかと打診があったから“もちろん”と承諾した形だ。なんだかラインハルトに仲間の1人と認められたようで嬉しかった。
それと同時に、僕もお返しにラインハルトのことを“ハルト”と愛称で呼ばせてもらうことにした。実はまだ呼ぶのに照れがあるけど、せっかく許してくれたからどんどんハルトと呼んでいこうと思う。どうでもいいけど、クルトとハルトってなんだか似てるね。
「そうね。武器を失えば戦闘力はどうしても落ちるもの、備えは必要だわ。さすがは冒険者の先輩ね。私たちは幸運ね、貴方のような優秀なポーターを仲間にできて」
「ひゅー! 2人に褒められるなんてクルクルやるじゃん!」
「すご、い…!」
「いやー、あはは……」
褒めてもらえるのはとても嬉しいけど、なんか複雑だ。僕はルイーゼの武器が壊れることを予見して予備の武器を用意していたわけじゃない。僕は皆が褒めてくれるような、用意周到な優秀なポーターというわけではないのだ。むしろ逆、これは僕の
僕は以前に王国有数の商会であるオスターマイヤー商会で大量の宝具を買ったことがあるんだけど……実はその時買った宝具は全てマジックバッグに入れっぱなしなのだ。剣の宝具なんて、あと5、6本は入ってるんじゃないかな?
僕だって、本当は必要な物だけを用意した方が良いのは分かってる。マジックバッグの容量も無限ではないし、いくら3つも重量軽減の宝具を使っているとはいえ、限界というものがある。それぐらい僕にも分かる。分かっているけど……なにかの間違いで必要になるかもしれないじゃん?
オスターマイヤー商会から買った宝具は、たしかに中には首を傾げる物もあったけど、全体的には有能な宝具たちだ。まぁアイギス・リングの件でちょっと不信感もあるけど……基本的には冒険で役立つ宝具たちである。その取捨選択が僕にはできない。僕には決断力というものが無いんだな。ついでに言えば、もったいない精神と心配性な部分が邪魔をしている気がする。どうにも切り捨てるという判断が苦手だ。だから結局、全部持ってきてしまう。いつかマジックバッグの容量を超えて溢れちゃいそうで怖いな。その前に重くて持てなくなるのが先かな。どうにかしないとね。
「こんな高そうな剣いいの? 折れても弁償できないわよ?」
「この剣は折れても大丈夫だよ。そういう宝具だから」
「宝具!?」
ルイーゼが体をビクリとさせて剣に伸ばしていた手を引っ込めてしまった。宝具という言葉に驚いたみたいだ。
「なるほど。それが宝具ですか」
「たしかに華美な宝剣ね。繊細な飾りは女性らしさを感じさせるわ」
「あーし、剣のほーぐって初めて見たかもー」
「私、も…」
いつの間にか周りに集まっていた『融けない六華』の面々。まぁ冒険者や富裕層でもなければ宝具ってあまり見かけない物かもしれない。そういえば、まだ『融けない六華』ではダンジョンで宝具を見つけてなかったね。だからますます珍しく感じるのだろう。
「宝具って高いんでしょ!? ほんとにいいの!? あたし、また壊しちゃうかもよ!?」
「大丈夫だよ」
僕は鞘も柄も真っ白な剣をスラリと抜いてみせる。
「おぉー!」
「キレー…」
現れたのは、どこまでも真っ白な穢れ一つ無いまさに純白の刀身だ。皆の視線が剣へと集まっているのが分かる。僕が剣をゆっくり振り上げると、皆の顔も自然と上を向いてなんだか面白かった。笑ってしまいそうになるのを堪えて、僕は剣を床に向けて思いっきり叩きつける。
「え!?」
「な!?」
「ちょ!?」
絨毯が敷かれているためか、まるで鈍器で殴ったかような重苦しい音が辺りに響き渡った。
「ちょいちょいちょい! クルクル!? 何やってんの!?」
「そうよ! そんなことして折れたりしたらどうするのよ!?」
「クルト…?」
「貴方、気は確か?」
「なん、で…?」
皆、僕の突然の凶行に驚いているようだ。まぁ、いきなりこんなことすれば驚くのは当たり前かな。まるで僕が危ない人みたいだね。反省しよう。
「ごめん、ごめん。ちょっとね……」
僕は剣の状態を確認する。
「うーん……折れないどころかヒビさえ入らないし、欠けもしないかぁ……」
なんだか僕の非力さが浮き彫りになっただけで恥ずかしい思いだ。これでも筋力には自信があったんだけどな……。
「良かったじゃない! もっと大切にしなさいよ!」
ルイーゼがすごい剣幕で言う。たしかにルイーゼの言うことは正論だ。だけど、それは普通の剣ならの話。僕はネタバラシをするために口を開くのだった。
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