第2話 僕のこれまで
どうしてこんなことになっちゃったんだろう…?
僕、クルトは過去に想いをはせる。
思えば、この結末は成人式の時には決まっていたのだろう。
成人式。人は15歳になると成人し、神様から1つだけ特別な力【ギフト】が貰える。あまりにも無力な人間を神様が憐れに思ったからだそうだ。
僕のギフトは【勇者の友人】だった。
僕のギフトに大人たちは舞い上がって期待した。勇者の誕生に。そう。僕のギフトは、勇者が居なければ成立しないギフトだ。だから、勇者は必ず現れるはずだと期待したのだ。
果たして勇者は現れた。
僕のすぐ後に成人の儀式に挑んだアンナ。彼女のギフトは【勇者】だった。
たしかに、彼女は家も隣同士だし、歳も同じで一番の友人と言えるだろう。密かな恋心を抱いていたほど彼女は僕にとって特別だった。そんなアンナが【勇者】のギフトを賜った。
大人たちは大騒ぎだったのを覚えている。【勇者】のギフトを賜ったのは、歴史上でも片手で数えるほどの人しか居ないらしい。【勇者】はそれほど貴重で、かつ強力な力を持つギフトだ。そんなギフトをアンナが……僕は誇らしいような、急にアンナが遠くに行ってしまったような寂しさを感じたのを覚えている。
大騒ぎする大人たちを尻目に、アンナは冷静に見えた。しかし……。
大波乱に終わった成人式の夜。アンナは僕の部屋に来て言った。
「この村を出ましょうクルト。私はこんな田舎の村で終わりたくないの。私たちならきっと英雄になれるわ!その為の力ならもう持ってる!」
今にして思えば、アンナも冷静じゃなかったのだろう。彼女もまた浮かされていたのだ。【勇者】という英雄の力に。
だけど、この時の僕は彼女の異常に気付きもしなかった。惚れた弱みも手伝って、彼女と一緒に故郷の村から逃げるように飛び出したのだった。
そこからはとんとん拍子に上手くいった。なにせ、アンナのギフトは【勇者】。英雄の力がある。普通では困難なことも【勇者】の力で強引に進んできた。
仲間も増えた。若い僕らを心配して、いろいろな助言をくれた熟練の冒険者である【剛腕】のルドルフ。斥候に戦闘、宝箱の解錠もお手の物なお調子者【気配遮断】のフィリップ。そして、広範囲殲滅魔法が得意な【魔導】のアレクサンダー。
僕たちはパーティを組んで……最初は上手くやれていたはずだ。僕たちは順調にダンジョンをいくつも攻略して、挑むダンジョンのレベルを上げていった。僕たちのパーティは、ここ冒険者の聖地である王都でも一気に頭角を現し、その地位を不動のものとした。
決め手になったのは、やはり邪龍の討伐だろう。古に封印された邪龍の復活。それを討伐したのが僕たち『極致の魔剣』だ。その功績を称えられて、僕を除く4人は
僕は功績不足でなにも貰えなかったけどね。まぁそれも仕方ないと思ってる。実際、僕はなにもできなかったし。功績なんてあるわけない。だから僕だけ只のクルトだ。
この時も皆して僕を慰めてくれたっけ。少なくともこの時までは上手くいっていたんだ。表面上は。
確かにあったはずのパーティの絆が、いつから崩れてしまったんだろう?
原因は分かっている。パーティの要である【勇者】アンナの不調が原因だ。いつ頃からか、アンナの【勇者】としての力が不安定なものになった。その原因は不明。パーティの中心であり要であるアンナは、その重圧と原因不明の力の増減に振り回され、ストレスを感じていたのだろう。そのストレスの捌け口に僕に当たり散らし、アレクサンダーに甘えることが多くなった。薄々気が付いてはいたけど、たぶんこの時には既に2人は付き合っていたのだろう。僕の初恋は失恋に終わった。
僕はこの時ほど神様を恨んだことは無いかもしれない。なぜ【勇者の恋人】ではなく【勇者の友人】というギフトなのだろう。これでは神様に僕とアンナは結ばれないと云われてるようなものじゃないか。
しかし、姑息な僕は同時に安堵もしていた。少なくともアンナとは友人でいられるのだろうと。今はアンナの調子が悪くて機嫌が悪いだけで、また友人として接してもらえるのだろうと信じていた。
だからアンナが理不尽な理由で僕に当たり散らしても我慢したし、パーティの中心であるアンナの態度に感化されたのか、ルドルフもフィリップもアレクサンダーも僕に対する態度が悪くなっても我慢した。戦力にもなれないし、ポーターとしても半人前だからと報酬を満足に貰えなくなっても我慢した。またいつか皆で笑って冒険ができるって信じたかったから。
信じたかったんだけどな……。
そんな夢みたいなことを思っていたのは僕だけだったらしい。他のパーティメンバーは、冷徹に僕のスペックを見て切り捨てる判断をした。
「さて……」
荷造りの済んだガランとした自室を見て思う。いや、もう自室とは呼べないんだな。改めて僕の居場所など無いのだと思い知らされる。
「さよなら……」
僕はそう呟くとパーティ拠点を後にする、かつての仲間たちに律儀に挨拶するつもりは微塵もなかった。
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