第11話 アザミと留守番

 手紙を出すために、サァリーは街に出かけた。俺は街に行けないので、この屋敷に残る。

 昼食はサァリーがいなくても食べられるように用意してくれているので、部屋からも出る必要はない。


 キュウキュウ


 俺はベッドの上で絵本を読んでいたところに、鳴く声が聞こえた。アザミが目を覚ましたんだ!サァリーの言う通りに目を覚ましたよ!すごい!!

 絵本を脇に置いて、アザミに近寄った。アザミは籠の中でクシクシと目をこすりながらキュウと鳴く。


「おはよう」


 俺が声をかけると、目をこすることを止めて、黒い目をまん丸にして俺を見る。


「お腹へった?ここにナッツがあるよ?食べる?」


 テーブルの端に置いてあった小皿から一つナッツを取って、アザミに渡した。アザミはナッツを受け取り、ガジガジと噛んで口に放り込む。それから催促するかのように、ジッと見つめてくる。

 俺はアザミの気が済むまで、ナッツを渡すと、アザミの頬はパンパンに膨れていた。その状態でキョロキョロと我に帰ったように周りを見渡すのだから、面白い。

 フフ、と笑ってからアザミに声をかける。


「君に名前をつけたんだ。気に入ってくれると良いな」


 きょとんとして首をかしげる。可愛くてつい頬袋をつついてしまった。それを止めるようにアザミは指を小さな手で掴む。


「あのね、君の名前はアザミ。頭の部分が花のアザミに似ているから、君の名前はアザミ。どう?」


 興味無さそうにアザミは掴んでいた指をガジガジと噛み始めた。くすぐったくて、クスクスと笑ってしまう。

 やっぱり言葉は分からないか。こういう定番は、言葉を返してくれたりするんだけど…そう上手くはいかないよね。

 頭のポワポワをよしよしと人差し指と中指の二本で撫でる。アザミは気持ちよさそうに目を瞑り、指に頭を押し付けてくる。


「アザミ、君はどうしてケガしてたんだろうね?」


 昨日、ミミーも引っかかっていなかったし、あの黒い雲もおかしかったな。

 もやもやと考えていたら、アザミはぴょこんと俺の手の甲の上に乗っかり、そこからタタタタと腕を上がってきた。肩で止まり、俺の頬にアザミの頭を寄せてきた。


「もしかして、慰めてくれてのかな」


 アザミの頭の部分のふさふさがくすぐったくて、フフフと笑いがこみあげてきてしまった。可愛いなぁ。


「アザミ、ここの上までこれる?」


 俺は左手をやや斜め上に上げて、左手の手のひらをちょんちょんと指した。キュウと鳴いたが待っていてもアザミは動かなった。代わりに頬に押し付ける力が強くなって、頬がつぶれてしまう。

 ぐりぐり、と頭を押し付けれて、その力強さにアザミのアザミの部分が取れちゃわないか、少し気になった。


「もうおりようね」


 俺はアザミをそっと掴んで、籠の中におろした。アザミはきょとんとしてから、籠の中をウロチョロする。まるで確認をしているようだ。

 クルクルと籠の中を何周か回り満足したのか、クッションの真ん中で頬袋に入れたナッツを取り出して、カリカリと食べ始めた。

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