第7話 ラータの名前
傷も汚れも綺麗になったラータは、疲れたのか、力が抜けて俺の手のひらの上で倒れてしまった。慌てて、ラータが落ちないように支える。
「少し、疲れてしまったのかも知れないですね。癒しの魔法は、かける側にもかけられる側にも体力を消費させてしまいますから」
「そうなの!?じゃあ、サァリーは?サァリーも疲れたんじゃないの!?」
「ふふふ、心配してくださってありがとうございます。私は大丈夫ですよ」
そっか、癒しの魔法には体力が必要になるんだね。でも、地球で俺が呼んでいた小説とか漫画とかだったりすると、特殊な人しか出来なかったりしたんだけど俺はどうなんだろう?
「僕にも出来る?」
「はい、勿論ですよ。」
やった!もし、俺がケガしたときは自分で治した方がきっと良いよね。だって、サァリーに心配かけなけなくて済むし、サァリーの体力を使わなくて良いから。
だったら、もっと体力をつけるために筋トレしなくちゃ!がんばろ!
「でも、なんでこの子はケガしちゃったんだろうね。木から落ちちゃったのかな?」
「…ラータならこのくらいの傷だったら、治せることが出来るはずです。しかし、それが出来なかったとなると」
サァリーが眉をひそめて小さく呟いた。
「まずいかも知れないですね」
あのサァリーが不安に思ってる!それが俺にとってかなりの衝撃だった。
そわそわとし始めた俺を気遣って、ふわりとサァリーは笑う。
「大丈夫ですよ。それよりもラータを寝かせて上げましょうか」
俺の気がそれるように、話をそらす。でも、確かにラータを寝かせたほうが良いのかも。
サァリーは木の皮で編んだ籠に白いのクッションを入れて持ってきてくれた。俺はラータを起こさないように、そっと、寝かせて上げた。少し身じろぎして、起きたかと思ったが、自分の寝やすいように移動しただけだった。
ザワリと不穏な空気が背中を撫でた気がした。
「中庭の方に行きましょうか」
サァリーが俺の背中を撫でてくれると、その嫌な感じが消えていく。
「うん」
ラータの寝床の籠を渡され、落とさないようにしっかりと両手で持った。
誘導されるままに俺はサァリーと中庭に行く。中庭の花は変わりなく咲き誇っていたが、天気が悪く、どんよりとした暗さだった。
サァリーは中庭の真ん中にある噴水の近くに、椅子を設置して俺を座らせた。いつもなら、ここは水が当たってしまうからと座らせてくれない場所だ。
俺は椅子に座り、太ももの上に籠を置く。
ガラスの天井が揺らぐ。風でも揺れないそれが、ガタガタと何かに耐えているようだった。いつもならありえないその光景にフルリと体を震わせた。
「サァリー…」
不安で名前を呼ぶと、ポロリと涙が零れてしまった。それを見てサァリーの方が慌ててしまう。
「あぁ!クーレ様、泣かないでください!大丈夫ですよ!」
ワタワタとして何も出来ないサァリーが面白く、少し笑ってしまった。その笑い声に、サァリーも落ち着きを取り戻し、ハンカチで俺の顔を優しく拭いてくれた。
「フフ」
「…そう、大丈夫ですよ。怖いことよりも楽しいことを考えましょうね。そうすれば、すぐに怖いことなんて終わりますよ」
まるで歌うような声音に俺も心が軽くなる。
「楽しいこと?」
「えぇ。まずは、この子の名前でも考えてみましょうか」
「名前?」
そっか。ラータは動物の名前だから、ちゃんとしたものじゃないのか。例えるなら、猫を猫って言ってるだけだった。
俺は、名前を考えるためにジーっとラータを見つめる。赤い色がベースの黒の縞模様がある毛並みと頭頂部の綿毛みたいなふさふさ。お腹も少し薄くなった赤なんだね。
良し、決まった!
「この子、アザミが良い!」
理由は綿毛の部分がアザミの花のようだったから。それに単純に覚えやすい。
「アジャミですか?」
「うん!」
なんか発音が違ったような気がするけど、気にしない。俺とサァリーの間ではよくあることだし、もしかしたら、俺の発音に日本語の発音が少し混じっているのかもしれないから。舌足らずな訳ではない、決して。
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