第6話 ラータ
俺がミミーを一人で倒せるまで、サァリーはゆっくりと難しさのレベルを上げていった。
最初は、ナイフの練習から始まり、次はミミーを剥ぐこと、またその次はミミーの命を奪うこと。サァリーは決して俺に無理をさせなかった。
少しずつ、少しずつミミーの狩りが出来るようになっていった。けれど、ミミーの捕獲は一人だとどうしても出来ないので、罠を作ってもらった。
腕力とか反射神経が足りないのだ。しょうがないよな。まだ小さいし。そのうち、サァリーのようになる。
その罠は、木に糸でミミーの毛皮を吊るし、それを食べに来るミミーを狩る、いわゆる陸上釣り方式だ。その成功率、100パーセント!
狩りの最後に毛皮を下げて置けば、翌日には釣れるという簡単かつ確実である罠だ。この罠は、サァリーの出身地の昔から行われていたミミー狩りの手法だそうで、先人の知恵は凄いなと思いました。
ミミー狩りに慣れて来ると、サァリーは魔法での攻撃の仕方を教えてくれた。風を操り、対象を切る魔法だ。今はあまり威力が無く、ミミーの毛を切るくらいしかないが、そのうち、サァリーのように切り株を沢山作ってやるぜ。
今日もミミー狩りをするつもりだった。しかし、ミミーはいつもの場所にはいなかった。
サァリーはすぐに俺を後ろに下がらせる。
「サァリー、どうしたの」
「少し森が静か過ぎます」
その言葉に、緊張が走る。ざわざわと、木々が騒めいた。
キュウ
小さな声が聞こえた。それはまるで俺に助けを求めているようだった。俺はサァリーから離れてその声の主を探した。
「クーレ様、離れないでください!」
サァリーは声の大きさを抑えて注意する。けれど、ガサガサと探す俺を無理に止めなかった。俺もサァリーが警戒しているのは分かっていたが、どうしても鳴いている子を見つけてあげたかった。
その子は木の陰に隠れて鳴いていた。小さな赤毛のリスで、頭に綿毛のような花がくっついている。サァリーはそのリスを見て、「ラータですね」と呟いた。
ラータは、足をケガして動けなくなっていたようだった。俺はそっとその子を両手ですくい上げて、
「痛かったね。もう大丈夫だよ」
と慰めた。それに答えるように、ラータはキュウと鳴いた。
「今日は、その子を連れて帰りましょうか」
「うん」
サァリーは、俺を抱きあげて足早に帰る。ラータは俺の手のひらの上で震えていた。ラータが落ちないように、潰さないように優しく丁寧に抱える。
屋敷に戻り、サァリーは俺を降ろした。
「ラータのケガを見せてください」
俺はラータに大丈夫だよ、と声をかけてから、そっとサァリーに見せた。ラータの小さな膝からポツリポツリと血が流れている。痛みからか、それとも恐れからかは分からないが俺の人差し指をギュッと握って離さない。
サァリーの指先からフワフワと小さな綿毛が飛んでいき、ラータの傷を癒した。
「今のが癒しの魔法です。このくらいの傷なら跡も残らずに治るでしょう」
「ありがとう、サァリー。」
「いいえ。さぁこの子を綺麗にしてあげましょうね」
俺の言葉にサァリーは微笑み、水色の息を吹きかける。すると、俺の体ごと水色の風のようなものが包み込み、ついていた汚れを全て落とした。ふふ、この魔法は少し涼しいんだね。
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