第5話 クーレ様のメイド

 私がクーレ様と出会った時、これは運命だと感じた。


 当時の私は、クーレ様の母親であるパンプキム家の奥方の専属メイドだった。奥方がお産みになって、白いおくるみに包まれていたクーレ様をお目にかかった。キラキラとクーレ様だけが光っており、天使か妖精かはたまた神をお産みにでもなったのかと、私は疑った。

 肌は百合のように白く、瞳はオニキス、髪は夜明けを切り取ったようだった。体は柔らかく、ふわふわとしていた。


 しかし、周りの反応は私と違った。まるで忌むべきもののようにクーレ様を見た。こんなにも美しいのに理解が出来なかった。


 クーレ様のおみ足は、ところどころに青い光沢の鱗がある。それが呪われた者だと揶揄された原因だった。不吉な子として、始末されそうになったところを私がかばった。

「殺してしまえば、この呪いがパンプキム家に降りかかるかもしれない」と、そう当主や奥方に吹き込んで。

 こんなこと、言いたくなかったけれど、それを信じた者たちは私とクーレ様をパンプキム家の森の奥地の小屋に追いやった。それでも、クーレ様が生きてくださるのならと、そんな思いだった。もし、真実がクーレ様に知れた時は私は喜んで罰を受けよう。


 小屋は小さくベッドも家具も一つも無かった。そして従者は私一人しかいなかったけれど幸いにも私は魔法に長けていてので、あらゆることを一人でこなせた。


 私はそれから、クーレ様の為になんでもした。小屋を立て直し屋敷にし、言葉を、マナーを、魔法を、生きるための術を教えた。

 クーレ様は我儘も文句も何一つ言わず、学び、理解していった。多分、クーレ様は神童なのだろう。


 初めてクーレ様を抱っこした時はあまりの柔らかさに、心臓が止まるかと思った。冷や汗をかいて、必死に潰さないように努力した。

 匂いは甘くミルクを溶かしたようで、暇さえあれば嗅いでいた。今はそれが少し薄れたが、やはりおいしそ……いい匂いなのは変わりない。


 初めて私の名前を呼んでくださった時、私は天に召されるかと思った。それほどまでに可愛らしく、愛おしかった。今でも私の名前を、「サーリー」または「サアリー」と舌足らずで言われると見悶えてしまいそうになる。クーレ様本人は自覚は無さそうだったので、それを必死で私は耐え無くてはいけない。


 クーレ様の悪癖も可愛らしい。パクパクと小さなお口の中に入れてしまうが、美味しくないとへにゃと眉を下げる。その少し困っているような表情が可愛らしくて……とは言っても、危険なので注意するが、中々に治らない。これに関しては、気長に注意していかなくては。


 魔法を教えた時のクーレ様は、ただただ美しかった。まるで妖精。いやきっと妖精の生まれ変わりなのだろう。クーレ様が魔法を使うと周りの空中の魔素が反応して、淡い光を放つ。

 花を咲かせる魔法の時は、天界の住人か、と思い始めた。たどたどしかったのは、最初だけで。それも可愛らしかったけど。その魔法になれて来ると、今度は、歌うように踊るように花を咲かす。やはり、天上の方だったのか。


 狩りを教えた時は熱い眼差しで私を見てくれた。あの視線で私の体は溶けてしまうかも知れない。そして、ミミーを食べるその恍惚の顔に、私の背中にゾクゾクと何かが走った。それからひどく空腹感が襲い、残りの肉を全て平らげてしまった。

 ミミーは一度狩ると、次が狩りやすくなる。はぎ取った皮を木に吊るしておくだけでそれを餌だと思ったミミーが釣れている。ミミーはその皮を消化出来なく、ミミーが逃げることもないのでクーレ様の小さなお体でも、狩りやすい。

 順調に狩りを覚えていくクーレ様は、ひれ伏したくなるような凛々しさがあった。この先、きっとクーレ様は、この国の、いや世界一の剣士になるだろう。私はそう確信出来た。


 クーレ様の成長に立ち合えて私は幸運だった。これからもクーレ様についていき、そのお姿をしっかりと目に焼き付けなければ!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る