第3話 魔法

 この世界には魔法がある。サァリーはその魔法をいとも簡単に使う。他の人はどう使っているのかは分からないが、彼女の魔法はとても綺麗だ。


「今日は、魔法で花を咲かせてみましょう」

「うん!」


 彼女が綿毛のついた種を右の手のひらに乗せて、キラキラ光る金色っぽい息を吹きかけて、地面に落とすと種から芽が出てすくすくと育っていく。葉が育ち、蕾ができ、タンポポの花を咲かせた。あっという間に花が咲き、俺は嬉しくなる。


「すごいなぁ」

「さぁ、クーレ様もやってみましょうね。」


 サァリーは、俺の手のひらに種を渡した。


「花を咲かせるときのコツは、咲いてほしいと思う気持ちをこの種に込めることです。最初は難しいと思うので種に話しかけて伝えましょう」


 気持ちを込めて、種に話しかけてみる。上手くできるといいけど。


「お花さん、お花さん、咲いてください」

「そうです。次は息を吹きかけて飛ばしてみましょう」

「うん」


 俺は綿毛に息を吹きかけて、種を飛ばした。ふわりと飛んだ種は地面についた。しかし、芽は出なかった。


「あれ?」

「フフ、まだ恥ずかしいのかも知れないですね」

「お花さん、恥ずかしいの?」


 この世界の花は意思があるのだろうか?ジーっと見つめていても芽は出ない。


「では、次に植物には何が必要か考えてみましょう」

「うーんと」


 植物に必要なものか。何だろう?


「お水?」

「正解です。それでは、噴水からお水を少しいただきましょうね」


 サァリーが人差し指をくるりと空中で回すと、噴水の少量の水が小さな球体になって俺の前に移動してきた。


「クーレ様もお水を呼んでみましょう」


 さっきと同じように声を出して呼べばいいのかな?


「お水さん、お水さん、こっちに来てください」


 サァリーの真似をして、人差し指をくるりと回した。それに呼応するようにふわりと小さな水の粒が浮かぶ。


「きゃぁ!」


 俺は嬉しくなって奇声を上げた。


「次は、お水を種にあげてみましょう」

「うん」


 俺は人差し指を種に向けると、水の粒は種に向かった。ピチョンと種は水に濡れて、綿毛は地面にぺったりとくっつく。よくよく見ると種から緑の芽がちょろっと出ていた。


「わぁ!」

「お上手ですね。でも、まだ何かが足りませんよね?さぁ、何が足りないでしょうか」

「うぅんとね」


 水以外に足りないもの?何かあったかな。俺が腕を組みながら考える。

 サァリーは自分が作った水の球を指ではじくとパチンと消え、その後、上を指した。上には透明なガラスと空があった。


「あ、お日様!」

「そうですね。お日様ですね」


 差し込む光をサァリーは、摘まむ。光はスルスルと透明なオレンジの布になって現れた。


「すごい!」


 サァリーは、その布を両手の手のひらの上に乗せるように俺に見せてくれた。俺は恐る恐る、その布を触った。

 タオルくらいの大きさの布は、軽く絹のような滑らかさで透き通るように薄く、ポカポカと暖かった。サァリーがふうと息を吐いて布はふわりと飛んで溶けるように消えた。


「クーレ様もやってみてください」


 俺は、光をそっと人差し指と親指で掴んだ。それは、サァリーと同じように現れた。しかし、サァリーのよりも小さく、ハンカチくらいしか無い。


「そのお日様を種に被せてみましょうね」

「うん!」


 俺はそっと種に布を被せる。ふわりと布が種に触れて、まるで早送りのように成長していく。芽が出て、葉が成長し、蕾が出来た。あっという間に花が咲くころには、布は空気に溶けるように消えていった。


「お花が咲いた!」


 喜ぶ俺にサァリーは拍手をして一緒に喜んでくれた。

 フッフッフ、魔法使いに一歩近づいたぜ!

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