第2話 悪癖

 今日は、中庭で花の観察をしよう。サァリーが魔法で花を咲かせている為、年中美しい花が咲いている。毎日、違う花が咲いているので見ていて飽きない。俺が頼めば、その花をすぐに咲かせてもくれる。

 魔法が凄いのか、サァリーが凄いのかは分からないけれど、花はいつ見ても綺麗だから花って偉大だ。


 花をジーっと見つめていると、涎が垂れてくる。今日の花はガーベラみたいだ。綺麗で美味しそうに見える。

 ポキッと茎を折って、花を摘んだ。俺はそれをそのまま口に運んだ。クシャリと嚙んだところで我に帰る。


 またやってしまった。がっくりと肩を落とす。花は美味しくはない。それを知っているのに、やってしまう。いや、花だけじゃない。俺はなんでもかんでも、というよりは、綺麗なものを口に入れたがる悪癖を持っている。止めようと思っても止められない。サァリーにも毎回注意され、その日は治っても次の日にはやってしまう。今日の朝もサァリーに注意されたので気を付けようと思っていたのに、これだ。この悪癖は一体いつ頃治るのだろうか。


 もしゃもしゃと口の中に入れた花を飲み込む。やっぱり、美味しくない。でも、もしかしたら別の花は美味しかもしれない。綺麗だし。

 そう思ったら、また口に入れていた。

 大丈夫。今、サァリーはいない。お掃除中だから。いないから、怒られない。なんて軽く考えていたら


「クーレ様!」


 ヤベッ!見つかった!俺は急いで、花を飲み込む。


「また、お口に入れましたね?」


 バレてる。いや、まだ大丈夫。俺は顔を横に振る。


「じゃあ、なんでここに咲いていた花が無くなっちゃたんですか?」

「あのね、妖精さんが持っていったんだよ」


 この世界には本当に妖精がいるらしく、急に無くなったものがあると、妖精が持っていくと信じられていた。絵本にもたくさん妖精のことが書かれていたし。だから、サァリーもこの嘘を信じてくれたら良いな。


「本当ですか?」

「うん!」

「じゃあ、この花びらはどうしたんですか?」


 意気揚々と返事をした俺に、サァリーは俺の足元にあった花びらを見せた。


「あ!」


 どうやら花を摘んだ時に落ちていたらしい。しまった。


「本当に花は妖精さんが持って行ったんですか?」


 もう一度問われて、罪悪感で俺はサァリーの顔を見られなくなった。


「…ごめんなさい。本当は食べちゃった」


 サァリーは俺を抱っこして、頭を撫でてくれる。


「クーレ様、本当のことを言ってくれてありがとうございます。食べ物では無いものを口に入れては駄目です。もしかしたら、それでお腹が痛くなっちゃうかも知れないんですよ。分かりましたか?」

「はぁい、ごめんなさい」


 ムギュッとサリーを抱きしめると、サァリーはフフと笑ってくれた。


「分かってもらえたなら良いですよ」


 また同じこと繰り返しちゃったら、ゴメンね、サァリー。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る