妖精の君
熊のぬい
始まり
第1話 クエレブレ・パンプキム
俺の名前は、クエレブレ・パンプキム。愛称はクーレ。前世の記憶を持つ5歳児だ。凄いだろ。俺の前世は、瓜本竜太(うりもとりゅうた)。しがない高校2年生だった。ある時、階段から落ちた同級生をかばって頭の打ちどころが悪く、お陀仏。目覚めたときにはクーレ君だったというわけだ。
「クーレ様、何処にいらっしゃるのですか?」
この声は、俺の専属メイドのサァリーだ。彼女は赤毛で三つ編みをしていて、そばかすがある女の人。いつも俺を探しに来てくれる優しい人。
クスクスと笑い声が漏れてしまう。おっといけない。静かにしなくちゃ、そう思って口を抑える。
俺は今、クローゼットの中に隠れている。何故って?隠れるのが楽しいからに決まってる。
「あぁ、こちらにいらしたのですね」
クローゼットを開けて、俺を抱き上げてくれた。にこやかな顔が、俺に対して怒ってないのが分かる。それが嬉しい。
「あのね、あのね、僕ね、かくれんぼしてたの」
「あら、そうだったんですね。隠れん坊は楽しかったですか?」
「うん!」
「それは良かったです。次はおやつにしましょうか」
「やったー!」
サァリーのおやつは大好きだ。彼女が手作りしてくれている。
「今日のおやつはなぁに?」
「フフフ、それは着いてからのお楽しみです」
サァリーは俺を抱っこしたまま、中庭に連れて行ってくれた。
中庭の天井は薄いガラスでできていて、そこから陽が差し込み、噴水や花を照らしていた。噴水は魔道具によっていつも清潔さを保っていて美しい。
用意されたテーブルには可愛らしい動物のクッキーが。
「キャー」
足をバタバタさせて喜ぶ。サァリーは俺を椅子に座らせてくれた。お尻が痛くならないように、椅子にはクッションが置いてあった。
ウサギでしょ、ワンちゃんでしょ、猫ちゃんでしょ、亀さんでしょ。1枚1枚確かめながら、食べていく。ふんわりと香るバターと優しい甘さ、ホロリと柔らかい。
隣には、冷たいレモン水が置いてあり、乾いた喉を潤す。
サァリーが風の魔法を使って、中庭は花びらを散らす。今日はピンク色の花びらが多い。俺が心地良い空間を演出してくれる。
この屋敷にはサァリーと俺しかいない。俺の面倒も屋敷の掃除も何もかも彼女がしてくれている。
ここは侯爵家のパンプキム家の私用地にある屋敷だ。忌み子として俺は両親から見捨てられ、世間から隔離されてサァリーに育てられた。何故俺が生かされているのか、何故忌み子なのかは知らない。ただ、前に母らしき人が来た時に俺を忌み子と吐き捨ててたからそうなんだろうと理解している。
それを俺を不幸だとは思っていない。だって、それを上回るほどの幸福でサァリーが補ってくれる。教育もマナーもサァリーが教えてくれる。綺麗なものも、凄いものも、怖いものも、全部、教えてくれる。無償の愛を伝えてくれる。だから、俺は幸せだった。
それにこの屋敷がある場所は森の中にあり、食料も二人分なら賄える。今、食べているクッキーだって全てこの森の中で取れたものだ。これって凄く贅沢なことじゃない?
「クーレ様。美味しいですか?」
「うん!」
俺が笑えば、サァリーも笑ってくれる。それが一番の幸せだった。
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