第六十九話 落下

 ドゴォンッ!


 と、聞こえてくる凄まじい音。

 同時感じるのは浮遊感……いや。


(ちがう。これは、この感覚は……っ!)


 落下しているのだ。

 などなど、エリゼがそんなことを考えている間にも。

 彼女の身体はどんどん落下して——。


 バサッ!


 と、思考を裂くように聞こえてくる音。

 見ればガーゴイルが翼を広げて飛ぼうとしている。

 それも全ての個体がだ。


「っ!」


 まずい。

 このままエリゼだけ落下し、ガーゴイルに上に戻られれば大変なことになる。

 なんせ上にはモンスターを倒せない二人——クレハとソフィアしか残っていない。


(あの二人を殺させるわけにはいかないわ!)


 それにそもそも。

 ガーゴイルのせいで、脆くなっていたに違いない床が崩れた可能性があるのだ。

 要するに現状はこいつらのせい。


(そのこいつらだけ助かるって、そんなの許せるわけないわ!)


 とはいえどうする。

 エリゼは飛ぶ手段がない。


(だったら、足を引っ張るしかないわね)


 文字通り。

 そのままの意味で。


「特殊魔法『触手』!」


 言って、エリゼは大量のガーゴイルと同数の触手を召喚。

 それを操って、ガーゴイル達の足を掴み。


 グワッ!


 と、思い切り引っ張ってやる。

 するとバランスを崩したに違いないガーゴイル達。

 奴らは再び凄まじい速度で落下を始める。


「ダメ押しよ! 攻撃魔法『ファイア』!」


 と、エリゼは連続して火球を、それぞれのガーゴイルの顔面へと放つ。

 それら全ては直撃——結果。


 ガーゴイルは完全にバランスを崩した様子で。

 真っ逆さまに未だ底の見えない奈落へと落下していく。


(私も見ている場合じゃないわねっ)


 このままでは次はエリゼの番だ。

 どこまでこの穴が続いているかはわからない。

 けれど、このままでは確実に——。


 死ぬ。


 それはダメだ。

 エリゼはまだ死ねない。

 しなければならないことがあるのだから。


「っ!!」


 と、エリゼは咄嗟に剣を思い切り握り、それを近くのを壁へと突き刺した。


 ガガガガガガガガガガッ!


 と、聞こえてくる凄まじい音。

 同時。


 ギギギギギッ!


 と、悲鳴をあげる剣。

 けれど、確実に落下の速度は落ちてきている。

 あとは何が先かだ。


 無事に地面へ到着するのが先か。

 地面に到達し、エリゼが死ぬのが先か。

 剣が壊れ、エリゼが落下して死ぬのが先か。

 エリゼの握力が足らず、これまた落下して死ぬのが先か。


「さあっ、勝負、よっ!」

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