第六十七話 エリゼと地下山道

 現在、エリゼ達はトンネルの入口を吹き飛ばし、トンネルの内部へと侵入——そこから続く地下山道目指して階段を降りている最中だ、


「それにしても広いわね」


「すっごく広い! ジャイアントスネークゾンビが、余裕で通れるくらい広いんだ!」


 と、エリゼの言葉に対し返してくるのはクレハだ。

 エリゼはそんな彼女へという。


「そうね。そもそもあまり狭いと、並んで歩けないから不便でもあるしね」


「たしかにそうだ! 一列で並んで歩かないといけない道だったら、モンスターに挟まれたら大変だったぞ!」


「ただ暗いのはなんとかして欲しいわね……」


 というのも現在。

 実はエリゼ達、三人揃って手に松明を持っているのだ。

 その理由はもちろん、ここが真っ暗だからだ。


 なんなら入った瞬間暗すぎて、エリゼは一度外へと出たくらいだ。

 そして、そこで松明を作って再度突入したというわけだ。


 さてさて。

 エリゼがそんなことを考えている間にも、いよいよ階段は終わり——。


「ここが地下山道」


「まるで絵本に出てくる宮殿みたいだ!」


 と、エリゼの言葉につづけて言ってくるクレハ。

 彼女の言う通りだ。


 暗く、埃がすごい。

 その二点を除けば、とても頑丈かつ美しい作りのここは、まるで物語の世界に迷い込んだかのような錯覚を抱かせる。

 おまけに道の端には大きな石像まで並んでいるときた。


「でもおかしいわね、モンスターがいないわ」


「クレハもそれは思った! なんなら、入った時からモンスターの気配がしないんだ!!」


 と、エリゼに対して言ってくるクレハ。

 エリゼはそんな彼女へと言う。


「そうなのよね。昔の人がモンスターに危機感を抱いてトンネルを封鎖するくらいなら、それこそ開けた瞬間にモンスターが出てきてもいいくらいだけれど」


「クレハわかった! きっとエリゼが強そうだから、みんな隠れてるんだ!」


「そうだといいのだけれど、ね」


 クレハの言ったことは、もちろん可能性としてはありえる。

 けれど、それは希望的観測だし、油断しない方がいいに越したことはない。


 などなど。

 エリゼ達はそんなことを話し合いながらも、なんだかんだで地下山道を進んでいく。

 そうして、十数分がすぎた頃。


 ギシッ。


 と、ふいに背後から足音が聞こえた気がしたのだ。

 もちろん気のせいの可能性もある。

 けれど。


「クレハ、ソフィア……っ!」


 言って、エリゼは二人を引っ掴んで横へと飛ぶ。

 するとその直後。


 斬ッ。


 と、先ほどまで三人がいた場所へと振り下ろされたのは、巨大な石の剣。

 見れば、その先にいたのはこれまた巨大な——。


「な……っ、悪魔型の石像!?」


 と、エリゼは思わず声を出してしまう。

 けれど、彼女はすぐにその正体に思い至る。


 ガーゴイルだ。


 石像に擬態した悪魔モンスター。

 物語の中でも、不意打ちで勇者パーティを襲う悪質なモンスターだ。


(さっきの攻撃——半ば勘で避けたけれど、過剰なくらいに反応して本当によかったわね)


 出なければ今頃ぺちゃんこだ。

 と、エリゼがそんなことを考えた直後。


 ギシッ。

 ギシッ、ギシッ。


 と、再び聞こえてくる足音。

 見れば、暗闇の向こうから現れたのは、更に四体のガーゴイルだ。


(っ! まさか山道の脇にあった石像って全部……まぁいいわ)


 考えたって仕方ない。

 どうせやることは一つだ。


「私のレベルの糧にしてあげる」

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