第六十話 エンカウント

 さてさて現在。

 仕方のないことといえば、仕方のないことなのだが。


「シャー!」


 と、聞こえてくるのはそんな鳴き声。

 エリゼが声の方へと視線を向けると、そこにいるのは——かつてこの世界に存在したという『蛇』によく似たモンスターだ。


(たしかジャイアントスネークだったわね。名前の通り大きい……人が乗れるくらいあるじゃない)


 要するにそう。

 エリゼ達はモンスターに襲われたのだ。


(迷惑なことこの上ないわね。こっちは早く例の山道に行きたいと言うのに)


 などなど。

 エリゼはそんなことを考えたのち、大きくため息をつく。

 そして彼女は続けて、腰の剣を構えようと——。


「……」


 と、無言でエリゼの前に立ったのはソフィアだ。

 彼女はふりふり、とエリゼへと顔を左右に振ってくる。

 エリゼはそんな彼女へと言う。


「ソフィア、いったいどうしたの? ひょっとして、あのモンスターと戦ってほしくないの?」


「……(こくり)」


「どうして?」


「あぶ、ない……から」


 と、たどたどしくも言ってくれるソフィア。

 エリゼはそれを聞いて思う。


(うぅ、なんて優しい子!)


 きっとソフィアはこう言いたいに違いない。

 モンスターとたたかうと、エリゼが傷つくかもしれない。そんな危険を犯してほしくない。

 だから戦ってほしくない。


 優しすぎる。

 自らは死んでしまっているのに、こうも他者を心配できる。

 やはりソフィアは死ぬべきではなかった。

 などと、エリゼが感動している間にも。


「だか、ら……ま、かせ……て」


 と、そんなことを言ってくるソフィア。

 彼女は腰の剣を抜くと、エリゼへと背を向けモンスターへと向き直る。


 やばい。

 ソフィアいい子すぎてやばい。


 だがこれはダメだ。

 その理由は簡単。


 ソフィアはゾンビとはいえ友達だ。

 傷つくところを見たくない。

 さらに言うなら。


「ソフィア、やっぱり私が戦うわ。だってモンスターを倒せるのは私だけで——」


 と、エリゼが最後まで言い切ろうとした。

 まさにその瞬間。


 ダッ!


 と、地面を蹴ってモンスターへと疾走して言ってしまうソフィア。

 止める暇もないとはこのことだ。


(まぁ、きっとソフィアもそれくらいわかっているはずよ)


 ならば。

 ここは信じてソフィアに任せるのもアリに違いない。

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