第五十九話 エリゼは旅に出る②

「帝国は山を越えないと行けないと言っていたけれど、ひょっとして道について何か知っているのかしら?」


「ん〜、一般的なことしか知らないぞ!」


 と、エリゼの質問に返してくるのはクレハだ。

 彼女はそのまま、エリゼへと言葉を続けてくる。


「帝国が山の向こうにあるってことしか知らない! だから行き方とかはわからないんだ!」


「やっぱりそうよね……そうでなかったら、帝国がある方向を聞いた時に、色々と教えてくれたはずだものね」


「うぅ、お役に立てなくてごめんなさいだ!」


「いえ、そんなことないわ」


 とはいえだ。

 さてさてこれからどうしたものか。


 とりあえずこのまま、帝国があるという方向に突き進むしかない。

 レッサデーモンを勢い余って殺してしまったのが、本当に悔やまれ——。


 くいくい。

 くいくいくい。


 と、引っ張られるエリゼの袖。

 エリゼがそちらの方向を見てみると、そこにいたのは。


「……」 


 と、無言無表情のソフィアだ。

 彼女はしばらくジーっとエリゼを見たのち。


「……知ってる」


 と、そんなことを言ってくるソフィア。

 エリゼは思わずそんな彼女へと言い返す。


「しゃ、喋れるの!?」


「意識……少しだけ、ある」


「ソフィア、守れなくてごめんなさい! 勝手にゾンビにして——」


「いい…….それより、意識がまたなくなる前に、知ってること…話す」


 と、たどたどしく言ってくるソフィア。

 彼女の説明をまとめるとこんな感じだ。


 帝国はやはり間違いなく山の向こうにある。

 そして山を越えるには、山の中央にあるトンネル——そこの山道を通る必要があるとのこと。


 けれど、そこは遥か昔に多くのモンスターが住み着き、それ以来使われていないらしい。

 故に通るのは危険とのこと。


「ありがとう、ソフィア」


「ん……エリゼ、あたし……もう」


 と、エリゼの言葉に対し、再びボーっとした様子で言ってくるソフィア。

 彼女はそれきり喋らなくなってしまう。


 きっと力を振り絞って、ここまで喋ってくれたに違いない。

 本当にソフィアには感謝だ。


(それにしても、ソフィアの状態が思ったよりよくて本当に良かったわ)


 帝国への行き方を知れた以上に、それが一番嬉しい。

 もっとレベルを上げて、ソフィアが人間に近づくのがより楽しみになってきた。


 などなど。

 エリゼはそんなことを考えたのち、ソフィアから聞いた場所をクレハと共に目指すのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る