第五十八話 エリゼは旅に出る

 時は翌日、早朝。

 場所はセントポール近くの草原。


「なぁエリゼ、もう少し休まなくてよかったのか?」


 と、聞こえてくるのはクレハの声だ。

 そんな彼女はそのままエリゼへと言葉を続けてくる。


「これから帝国に向かうのはわかったけど、帝国は山を越えないと行けないんだぞ!」


「帝国を早急に潰す用ができたから、休んでる暇なんてないのよ…….それより、クレハこそ良かったのかしら?」


「なにがだ?」


「せっかく街に戻れたのに、私に着いてきてしまってよかったの?」


「ん〜、別にいい! だってあの街もう……」


 と、シュンとした様子になってしまうクレハ。

 これはまずいことを言ってしまった。


 考えてみればすぐわかる。

 セントポートはもうだめだ。

 なんせ住民が全員死んでしまっているのだから。


 そして、その唯一の生き残りがクレハだ。


 彼女だけでセントポートに残っても、ロクなことにならないに違いない。

 例えば死体の処理とか——。


「それにクレハ、エリゼとソフィアと三人で旅する方が楽しい!!」


 と、嬉しいことを言ってくれるクレハ。

 彼女はエリゼと、その少し後ろを歩くソフィアを見たのちさらに言ってくる。


「エリゼの急ぎの用って、ソフィアを治してあげることだろ? だったらクレハもそれを手伝ってあげたいしな!」


「……」


 実はエリゼ。

 クレハに少し嘘ついてしまっている。


 ソフィアが死んだと言えなかったのだ。


 今のソフィアはゾンビであり、二度と蘇生することはない。

 そんなことは言えなかった。


(ソフィアはゾンビ化が進行しているだけで、死んでいるわけではない……なんて、よくもそんなこと言えたものね、我ながら)


 けれど、エリゼのレベルを上げれば、それはあながち嘘ではなくなる。

 死んでいることには変わりないが、人間並みの知性は得られるに違いないのだから。


 さてさて、ところでだ。

 エリゼには気になることがあるのだ。


「帝国は山を越えないと行けないと言っていたけれど、ひょっとして道について何か知っているのかしら?」

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