第五十五話 エリゼは撃ち落としてみる

 半ば崩壊した王の家。

 その消し飛んだ天井から見える空——そこを旋回するように飛んでいるのはレッサーデーモンだ。


(さっきの光による攻撃、タイミング的に確実に何かかかわっているわね)


 考えたのち、エリゼは上空のレッサーデーモンへと手をかざす……そして。


(レベルが上がった今なら、あれくらい届くはず……攻撃魔法『ファイア』!)


 と、エリゼが脳内で唱えた。

 その瞬間。


 翳したエリゼの手から飛び出したのは、ゾンビマザーに放ったモノよりも巨大な火球。

 それは凄まじい速度で飛んでいき、エリゼの狙い通り——レッサーデーモンの片翼を消し飛ばす。


「落ちてくる!」


 と、聞こえてくるのはクレハの声。

 彼女の言う通り、片翼を失ったレッサーデーモンはバランスを失ったに違いない——地面へと頭から真っ逆さま状態だ。


 けれど、このまま落とすわけにはいかない。

 なんせ、このまま落ちれば死んでしまうに違いない。

 それではダメだ。


(悪魔は話せる個体が居るって読んなことがあるわ……さっきの攻撃について吐かせるっ)


 どうしてエリゼとクレハを狙ったのか。

 その理由を問いたいのだ。

 故に。


「特殊魔法『触手』!」


 と、エリゼは触手を召喚。

 それを使って、落下中のレッサーデーモンをキャッチすることに成功する。


(落としたらどうしようかと思ったけれど、案外簡単だったわね)


 というか、触手の扱いがより精密になった気がする。

 きっとレベルが上がった影響に違いない。


 などなど。

 エリゼはそんなことを考えながら、レッサーデーモンを拘束したままエリゼ達の目の前へと持ってくる。


「ggggyyyyyyyyyyyy!!」


 と、なんとか脱出しようと暴れている様子なのはレッサーデーモンだ。

 近くで見てようやくわかったが。


(これが悪魔族のモンスター……本に乗っている通りね。人型のコウモリというか、なかなかに気持ちの悪い外見をしているわね)


 さて、レッサーデーモン観察している場合ではない。

 エリゼはレッサーデーモンへと剣を突きつけ、そのまま言う。


「さっきの攻撃は何? どうして私とクレハを狙ったの?」


「gyyyyyyyyyyyyy!!」


 と、エリゼに対して言ってくるレッサーデーモン。

 これはあれだ。


「お前、喋れないの?」


「gyyyyyyyy!! gggggyyyyyyyy!」


 と、エリゼに対して相変わらずなレッサーデーモン。

 なるほど、『悪魔が喋れる』というのはガセだったに違いない。

 それならば。


「お前、もう要らないわ」


 言って、エリゼを剣を振りかぶる。

 そして、彼女はそのままレッサーデーモンの首へと——。


「マ、マテ!」


 と、唐突に人の言葉を出すレッサーデーモン。

 エリゼは振りかけていた剣を、ぴたりと止める。

 すると。


「ナ、ナンデモ、シャベ、ル……タス、ケロ」


 レッサーデーモンさん口が軽すぎて笑えてくる。

 さすがはモンスター——命の危機から逃れるためならば、何も気にせず助かろうとするに違いない。



(まぁ、こちらの方が都合がいいからいいのだけれど)


 などなど。

 エリゼはそんなことを考えたのち、レッサーデーモンへと言う。


「もう一度聞くけれど、どうして私とクレハを攻撃したの?」


「オレガ、シタンジャ、ナイ」


「…….」


「ホン、ト。オレハ、コウゲキウマクイッタカ、テイサツニ、キ、キテタダケ」


「偵察、誰の命令なの?」


「……ウッ」


「殺すわよ、お前」


 言って、エリゼはレッサーデーモンの額に剣を食い込ませる。

 すると慌てた様子で、レッサーデーモンはエリゼへと言ってくる。


「コ、コウテイ!」


「こうてい?」


「テイコクノ、トップ——コウテイ」


「っ」


 帝国の皇帝。

 帝国といえば、ソフィアの父——この街の王へとイチャモンつけてきた奴のはずだ。


 いったいどうして、そんな奴がエリゼとクレハを狙うのか。

 というか、どうしてモンスターと手を組んでいるのか。

 全く意味が——。


「ソ、ソレニ、ネラッタノ、オマエタチジャ、ナイ」


 と、エリゼの思考を断ち切るように聞こえてくるのはレッサーデーモンの声。

 エリゼはそんなレッサーデーモンへと言う。


「はぁ……何その言い訳。じゃあ、いったい誰を狙ったって言うのよ?」


「ゼンイン」


「は?」


「コノマチ、ノ、ゼンイン」


 瞬間、エリゼはかつて感じたことのない何かを感じた。

 まるで背骨が氷柱になったかのような。


 全員狙った?

 ならば先程、光が降ってきたのはエリゼとクレハだけではない?


「ソフィア……っ!」


「グ、ゲッ——クルシっ」


 と、エリゼに対して何か言っているレッサーデーモン。

 けれど奴はすぐに何も言わなくなる。


 エリゼ、うっかり触手に力を入れすぎて殺してしまった。

 だがもうなんでもいい。


(お願い、ソフィア……無事でいて!)


 ソフィアが生きているのなら。

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