第五十二話 VSゾンビマザー③

 奥の手を使う。

 このまま地味に戦うのはナンセンスだ。


(ゾンビマザーの本当の武器は、きっと回復能力でも身体の肥大化でもない)


 物量だ。


 地下に溜めている大量のゾンビたち。

 その全てがゾンビマザーの必殺技と言えるに違いない。


 であるならば、必殺技が発動するのを待つ必要はない。

 と、エリゼは前方確認。


 するとそこにいるのはゾンビマザー。

 そして、奴を守るようにどんどん増えていくゾンビたち。

 もうすでに30を超え、40、50と増えていっている。


(よくもまぁ、これだけゾンビを集めたわね)


 いったいどれほど、この街の人間たちを——クレハとソフィアの街の人たちを犠牲にしたのか。

 許せない。


(ゾンビを解き放った以上、こいつはもうスイッチが入ったはず)


 どうせゾンビを解き放ったのだ。

 この勢いで街を制圧してしまおう。

 そう考えているに違いない。


(負けることは許されないわね……もっとも)


 負けるつもりはないが。

 と、エリゼはゾンビマザーと、大量のゾンビたちの方へと片手をかざす。

 そして。


「補助魔法『リリース』……攻撃魔法『ファイア』!!」


 と、エリゼが二つの魔法を使った。

 まさにその瞬間。


 カッ!


 と、真っ白に染まるエリゼの視界。

 同時。


 ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドッ!!


 と、連なるように巻き起こる連続爆破音。

 さらに同時。


 斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬ッ!!


 と、周囲から響いてくる剣撃音。

 それらはどんどん間隔短く、より激しさを増していきついには——。


 ゴォオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!


 と、もはやなんの音ともわからぬ轟音を発し始める。

 要するに、これこそがエリゼの奥の手。


(さぁ、前日に補助魔法『ストック』で、貯められるだけ貯めてから『リリース』の味はどうかしら?)


 体力の続く限り、剣撃と剣技『一閃』を貯めた。

 気絶しても無理やり叩き起こしてもらい、吐きながら攻撃魔法『ファイア』を貯めた。


 それがこれ。

 数百の斬撃と、無数の『ファイア』が乗せられた攻撃魔法『ファイア』。


 などなど。

 エリゼがそんなことを考えている間にも、ようやく収まり始める爆炎と斬撃の嵐。


 ……。

 …………。

 ………………。


 そうして訪れる静寂。

 エリゼは目の前の光景を見て思うのだった。


「ちょっとやりすぎたかもしれないわね」


 そこにはゾンビマザーも、ゾンビも塵も残さず完全に消滅していた……それどころか。

 王の家はちょうど半分——エリゼが魔法を放った前方部分が、跡形もなく消失していた。

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