第五十一話 VSゾンビマザー②

「これで駄目押しよ……攻撃魔法『ファイア』!」


 言って、エリゼは翳した手から火球を放つ。

 それは間違いなくゾンビマザーへと直撃。


 爆音と共に炎を巻き上げる。


 ゾンビマザーのダメージは甚大に違いない。

 なんせ、体を頭から両断されたのちに、レベル10になり強化された火球を食らったのだ。


 後者の魔法に至っては、通常のゾンビなら跡形もなく消し飛んでいるに違いない。


(さぁ、どうかしら? これでやられてくれたのなら、それに越したことはないのだけれど)


 と、エリゼは決して油断せず——巻き上げられた爆炎へと目を凝らす。

 そうして次の瞬間。


 ゴッ!


 凄まじい速度で、爆炎の中からエリゼの方へと飛び出してくる肥大化した腕——焼け爛れてはいるが、あれは間違いなくゾンビマザーのものに違いない。


「ち、しつこいっ!」


 言って、エリゼは左へと飛び退る。

 そして続けて、彼女は真横にある伸び切ったゾンビマザーの腕へと——。


 斬ッ!


 一閃。

 しかし、案の定その腕は斬った端から瞬時にくっついていく。

 それどころか、先の攻撃魔法『ファイア』で与えた傷までも、どんどん再生していっている。


「上等よ!」


 言って、エリゼはさらに斬撃を繰り出す。

 一回、二回と続けて——。


 斬ッ! 斬ッ!

 斬ッ! 斬ッ! 斬ッ!

 斬ッ! 斬ッ! 斬ッ! 斬ッ!


 三回、四回、五回。

 エリゼは何度も斬撃を繰り出しながら——。


「やぁああああああああああああああああ!!!」


 と、ゾンビマザー本体の方へと、奴の腕を斬り刻みながら前進。

 すると。


 ブワッ!


 と、ついに爆炎の中から姿を現すゾンビマザー。

 奴は焼けただれ、エリゼが両断した身体が未だ完全に治らぬ醜悪な姿のまま——。


「ぐぉぁあああああああああああああああああっ!」


 と、声にならぬ雄叫びを上げながら、もう片方の手を肥大化。

 そして、ゾンビマザーはそのままそれを、エリゼの方へと叩きつけるように振り下ろしてくる。

 だがしかし。


「遅い……間合いよっ!」


 剣技『一閃』。

 エリゼはゾンビマザーの振り下ろし攻撃よりも、なお早く——奴の頭部へと渾身の斬撃を繰り出す。


 斬ッ!


 と、吸い込まれるように直撃するエリゼの攻撃。

 同時、ぴたりと静止するゾンビマザーの全ての動き。


(ゾンビの弱点は頭部。ゾンビマザーもゾンビである以上、その弱点は変わらないはずよ)


 さぁ、どうなる。

 などと、エリザがそんなことを考えた。

 まさにその瞬間。


 ピクッ。


 と、僅かに……けれど確かに動くゾンビマザーの振り上げている腕。

 まずい。


「っ!」


 と、エリゼが全力でゾンビマザーから距離を取った。

 直後。


 ドゴォンッ!


 と、先ほどまでエリゼがいた場所へと振り下ろされるゾンビマザーの腕。

 なるほど、ゾンビマザーは頭部を破壊しても止まらないに違いない。


(これはもう奥の手を——)


「ぁああああああっ」


「うぅうううううっ」


「ぁ、うぁあああああっ!」


 と、エリゼの思考をー断ち切るように聴こえてくる声。

 エリゼが声が聞こえて来た方——ゾンビマザーの背後へと視線をやると、そこにいたのは。


 大量のゾンビだ。

 それらは今なおどんどん、その数を増やしていっている。


(戦っている間に、地下から増援を呼んでいたってわけね)


 もはや他の住民に隠す気すらないといった様子の、このゾンビの増援。

 きっとゾンビマザーの奥の手に違いない。


(私の攻撃に対して回復は出来ているものの、焦っていないわけではないみたいね)


 まぁよく考えてみれば当然だ。

 回復できるとはいえ、ゾンビマザーを相手しているのはエリゼ。

 モンスターを殺す力を持っているのだから。


 なんにせよだ。

 相手が奥の手を使ってきた以上、エリゼもここで一気に決める。

 奥の手を使う時だ。

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