第四十九話 エリゼと王②

「ただいま、今帰ったわ。随分と色々やってくれたわね……私にも、ソフィアにも」


 言って、エリゼは王を睨みつける。

 そして、彼女はそのまま王へと言う。


「改めて聞くけれどお前、何者?」


「やぁエリゼくん、おかえり。何者とはひどいな…..この街の王にして、ソフィアの——」


「黙りなさいな、この偽者」


「偽者、偽者ね……ひどい言い方だな。でもそんな言い方をすると言うことは、我の正体に気がついているのではないかな?」


 と、そんなことを言ってくる王。

 やはりエリゼの想像通りだったに違いない。


 本物の王はこいつではない。


 目の前に居る王はゾンビマザー。

 となると。


「本物の王は何処にいるのかしら?」


「王が何処にいる、か? あぁ……なるほど、くくっ」


 と、エリゼに対して意味不明といった様子の表情を浮かべてくる王——もといゾンビマザー。

 エリゼはそんな奴へと言う。


「もったいぶらないで早く教えなさいな。どうせお前はここで——」


「死んだよ」


「……なんですって?」


「いや、キミは勘違いしているよエリゼくん。ははっ、なんだなんだ……真相には気がついていなかったんだねぇ、これは勿体無いことをした」


 と、手を叩くゾンビマザー。

 奴はエリゼへと言ってくる。


「王はね『この街を守りたい』って理由で、私を召喚したんだ。自らの身体を依代にね…..全くバカすぎるじゃないか、内側から食い尽くされるとは知らずに」


「……そのリスクは事前に言っていたの?」


「言うわけないだろう。キミはバカか? 王の脳を食い尽くせるチャンスだぞ? 逃すと思うか? おかげでこんな流暢に喋れるようにもなったしね」


「そう、つまり王はもう——」


「理解が遅いな。もうとっくの昔に死んでいるよ。初めに言っただろう、『死んだよ』と」


「……」


 なるほど。

 こいつは殺そう。


 だが我慢だ。

 まだゾンビマザーにはいくつか聞くべきことがある。

 まずはそのうちの一つ——。


「王がお前を召喚したって言ったわね。モンスターを呼び出せる何かが、この世界にあるとは思えないけれど?」


「あぁ、そうだろうね。人間の世界にはないだろうね……と、口が滑ったかな」


 と、エリゼに対して言ってくるゾンビマザー。

 エリゼはそれについて考える。


(人間の世界以外から持ってこられた何か? まさかモンスターには、そんな物を作る技術と知恵が……)


 可能性はある。

 モンスターは不老不死。

 さらには目の前のゾンビマザーなど、『王の脳を食らい知恵を得た』とはいえ、こんなにも流暢に喋っているのだから。


 となると、気になることはあと一つ。

 それは。


「どうして私を殺そうとしたの?」


「くくっ、そんなことも気がついていなかったのか。どうせ死ぬんだ、教えてあげよう……キミがかつての勇者と同じ力を持っているからだよ」


 と、そんなことを言ってくるゾンビマザー。

 さすがのエリゼも、勇者については知っている。


 子供に読み聞かせる絵本の話だ。


 何百年も昔、この世界は人間のものだった。

 しかしある日突然、何処からかモンスターとそれを統べる『魔王』という存在が現れた。


 魔王は不老不死のモンスターを率いて、栄えていた人間の文明を次々に破壊していった。


 そんなある時、魔王とモンスターを倒すべく、人間達の中から『勇者』と呼ばれる存在が立ち上がるのだ。


(最終的に勇者は負けて、この世界は魔王に支配されてしまうお話だけれど……まさかあの話、本当のことなの?)


 そしてその『勇者と同じ力』を、エリゼも持っている。

 そうゾンビマザーは言った。


(勇者が魔王に立ち向かったのは、私と同じ力——モンスターを殺せる力を持っていたから?)


 だとすると、このゾンビマザーがエリゼを狙ったのも納得できる。

 魔王にとって、この力はさぞ邪魔に違いない——それこそ配下に命令して殺害させようとするほどには。


 しかし、絵本の物語が真実だ。などと言われても、いきなり理解できるわけがない。


(いえ、そうよ。今は理解なんてしなくていいわ)


 今しなくてはいけないことはシンプルだ。

 もうゾンビマザーから聞きたいことは聞いた。

 となれば。


「話してくれて申し訳ないけど、あまりソフィアとクレハを待たせたくないの……殺すわ」


「いきなりだね、キミ。まぁいいさ……キミは可愛いからね、殺してゾンビのコレクションにしたいと思っていたんだ」


 と、エリゼの言葉に対し立ち上がり言ってくるゾンビマザー。

 エリゼは剣を引き抜き、そんな奴へという。


「ソフィアのお父さんを殺した罪、償ってもらうわ」

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