第四十六話 エリゼと新スキル

 エリゼは地下水路で、かなりの数のゾンビを倒した。

 そして最後には追加で一体——強力な個体のゾンビも打ち倒した。


 控えめに考えても、かなりのレベルアップの糧になったに違いない。


 などなど。

 エリゼはそんなことを考えながら、自らのステータスを見る。

 するとそこにあったのは。


レベル10

 剣技:一閃

 攻撃魔法:ファイア

 回復魔法:ヒール

 補助魔法:ストック、リリース

 特殊魔法:触手


(お、おぉ……っ!)


 レベルが結構上がってる。

 しかも新たなスキルが増えている。

 それは。


 補助魔法:ストック

 補助魔法:リリース


 さてさていったいどんな効果なのか。

 さっそく試してみるしかない。


(でも魔法である以上、注意が必要ね)


 などと、エリゼはそんなことを考えて自らの頭痛具合を確認する。


(正直まだ痛いけれど、ほぼほぼ回復してきたわね)


 少なくとも、魔法を二、三回使ったくらいで気絶するほどの痛みではない。

 エリゼはそんなことを考えたのち。


「クレハ、ソフィア。少し私から離れていて」


「どうしたんだ!?」


「……?」


 と、順に言ってくるのはクレハとソフィア。

 エリゼはそんな二人へと言う。


「新しいスキルを手に入れたのよ。だから少し試してみたいの。王の所へ行く際に使えるかもしれないしね」


「レベルが上がったんだな!」


「エリゼまだ体調悪そうだから……ん、やりすぎには気をつけて」


 と、そんなことを言ってくる二人。

 エリゼはそんな二人に頷いたのち、二人から離れた場所へと歩いていく。

 そして——。


「補助魔法『ストック』!!」


 ……。

 …………。

 ………………。


 なにも起きない。

 ひょっとして不発したのだろうか。


 いや待て。

 この魔法は補助魔法だ。

 だとするならば、エリゼの身体能力に働きかけるものの可能性が高い……ならば。


「クレハ。お願いなのだけど、剣を一本作ってくれるかしら?」


「クレハにおまかせだ!」


 と、エリゼの言葉に対し言ってくるのはクレハだ。

 彼女はすぐさま剣を作り、エリゼへと渡してきてくれる。


「ありがとう、クレハ」


 言って、エリゼはクレハから剣を受け取る。

 その後、彼女は一本の木の前への歩いて行き——。


 斬ッ!


 と、一撃を繰り出す。

 だがしかし。


「なっ!?」


 と、エリゼは思わず声を出してしまう。

 その理由は簡単だ。


 斬れていないからだ。


 それどころか、斬れ込みすら入っていない。

 さすがにこんなことはあり得ない。


(まさかこれが補助魔法『ストック』の効果?)


 けれど、自らの攻撃を無効化するスキルなど雑魚すぎる。

 これは外れスキルに違いない。


(仕方ないわね……気を取り直して次のスキルの確認よ)


 エリゼはそんなことを考えたのち、目の前へと手をかざす。

 そして。


「補助魔法:『リリース』!」


 ……。

 …………。

 ………………。


 やばい。

 ものすごく嫌な予感がする。


(ま、まだよ! 慌てるのはまだ早いわ!)


 言って、エリゼは剣を構える。

 そして、彼女はゆっくりと先程の木の方へと歩いて行き……。


 斬ッ!


 と、再び斬撃を繰り出す。

 同時にエリゼは思う。


(お願い、何か起きて! 2回連続で外れスキルなんてそんなのっ)


 さすがに嫌だ!

 と、半ば祈るようにエリゼは木を見る。

 すると。


 ズズッ。


 と、先の斬撃による斬り込みで、滑り落ちるように倒れる木。

 今度は斬れた。

 斬れたけれど。


(斬れた以外に特に何もない、わね)


 要するにこんなの、このスキルを使っても使わなくても同じだ。

 つまりこれ、どっちも外れスキ——。


「エリゼ、これを見て……」


 と、聞こえてくるのはソフィアの声だ。

 彼女はエリゼが斬り倒した木のそばに座り、なにかを指さしている。

 エリゼがそこへと目をやってみると——。


「っ、これは!?」


 と、エリゼは思わずそんな声を出す。

 その理由は簡単だ。


 倒木に斬撃が二箇所あるのだ。


 ありえない。

 エリゼはこの木に一度しか、斬撃を繰り出していないのだ。

 考えられることがあるとすれば。


「ん……ひょっとしてこれ、エリゼが補助魔法『ストック』を使った後にした斬撃が、文字通りストックされてた?」


 と、そんなことを言ってくるソフィア。

 エリゼも同じこと考えていた。


(そして、補助魔法『リリース』を使って攻撃した時に、補助魔法『ストック』で貯めた分の斬撃が一緒に出た?)


 要するにだ。

 補助魔法『ストック』は攻撃を貯め。

 補助魔法『リリース』は貯めた攻撃を解放するスキル。


 これは素晴らしい。


 外れスキルなんてとんでもない。

 むしろ当たりスキルだ。


(隙の少ない相手とかと戦う時には、特に重宝しそうね)


 一撃に何回分もの攻撃を載せられるのだがら。

 などなど、エリゼがそんなことを考えた。

 まさにその時。


 ズキンッ!


 と奔る凄まじい頭痛。

 二、三回魔法を使っても大丈夫。

 エリゼのそんな見立ては、どうやら間違いだったに違いない。


「……あ」

 

 倒れる。

 エリゼがそう思った直後、彼女の視界は真っ暗になるのだった。

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