第四十四話 エリゼと脱出完了

 結論から言うと、エリゼはソフィアのおかげで無事に牢からの脱出を果たせた。

 そして現在、時は夜。

 場所はセントポート外れにある墓地。


「パパが、嘘…..そんなっ」


 と、ショックを受けている様子なのはソフィアだ。

 もっともそれも仕方のないことに違いない。

 なぜならば。


(ソフィアの頼みとはいえ、やっぱりありのままを話すのは良くなかったかもね)


 エリゼはここにくる間に、一連の出来事を全てソフィに話し終えていたのだ。

 無論、牢での王との一件も含めて。


(ソフィアとはここで別れた方がいいかもしれないわね……私はこれから確実に王と対立するでしょうし)


 などなど、エリゼがそんなことを考えていた。

 まさにその時。


「エリゼぇえええええっ!!」


 と、聞こえてくるのは聞き馴染みのある声。

 同時、ハグッと何者かに抱きしめられるエリゼの体。

 見ればそこにいたのは——。


「く、クレハ!? どうして、兵士たちに捕まっていたんじゃ」


「ソフィアが助けてくれたんだ! それでな『ここで待ってたらエリゼを連れてくる』って、そう言ってくれた! そうしたら本当にエリゼと会えたんだ!!」


 と、エリゼの言葉に対し言ってくるクレハ。

 エリゼはそんな彼女を抱き返しつつ、少し離れたところにいるソフィアへと言う。


「ありがとう、何てお礼をしたらいいかわからないわね」


「ん……いい。友達が困っていたら、助けるのは当然のことだから」


 と、そんなことを言ってくるソフィア。

 彼女の表情は困惑と動揺に溢れ、露骨に憔悴しきっている様子。


(もし私も実の父がこんなことになってるなんて、そんな事を聞かされたら……)


 ショックを受けるに決まっている。

 助けてあげたい。


 クレハの街の住民を助けたい。

 それもまた理由の一つだ。


 エリゼに色々やってくれた王たちに復讐したい。

 それもまた理由の一つだ。


『友達が困っていたら、助けるのは当然』


 つい先ほど、ソフィアはそう口にしてくれた。

 ならば、エリゼも当然のことをしよう。


「ねぇソフィア、あなたのお父さん——あんなことをするような人なの?」


「そんなことない! パパは、パパは……誰よりも優しくて、いつも住民たちのことを考えてくれてる」


「そう。じゃあここ最近、王に何かおかしなところは?」


「ん、特にない……でも」


「どんな些細なことでもいいから私に教えて、お願いよソフィア」


「最近……周りの人と距離を取ってる感じがした。ん……あたしや側近とは特に」


 と、思い出すように言ってくるソフィア。

 エリゼはそんな彼女へと言う。


「王がそうなったのは、いったいいつ頃から? ソフィアはいつから違和感を抱いていたの」


「違和感かはわからない……でも『パパの元気がないな』って思い出したのは……ん、帝国といざこざがあってから」


 と、徐々に語り出してくれるソフィア。

 そんな彼女の話をまとめるとこんな感じだ。


 なんでも、このセントポートから山一つ挟んで向こう——そこには『帝国』を名乗る巨大な街があるそうなのだ。


 その街は近くの様々な街へと侵略し、次々にそれを吸収……巨大化しているそうなのだ。


 そして、その帝国はついにはソフィア達の街——セントポートへと、その手を伸ばしてきた。


「それからパパは一人で部屋に篭るようになった……誰も寄せ付けないで、一人でずっと何かをしてた」


 と、言ってくるソフィア。

 彼女はそのままエリゼへと言葉を続けてくる。


「でも、いきなり部屋から出てくるようになった…….そうしたら」


「今の王になっていた? 要するに——」


「ん、そう…….あたしや側近を必要以上に近づけないようになった」


 なるほど。

 エリゼはソフィアの一連の話を聞いていて、一つ思ったことがある。


 怪しすぎる。


 王様、怪しすぎてやばい。

 というかこれ。


「今いる王って、ソフィアのお父さんじゃないのではなくて?」


「っ!?」


 と、驚いた様子のソフィア。

 エリゼはそんな彼女へと言う。


「地下水路での話だけれど、ゾンビがやけに統率の取れた動きをしていた——って、私がさっき話をしたのは覚えているわね?」


「ん……覚えてる。エリゼをがホールに誘導されてから、一斉に襲いかかってきた。それと最後にエリゼが倒した騎士甲冑のゾンビ」


「そうよ。前者もそうだけれど、後者のゾンビも異質よ——ゾンビを操れるだけでなく、優れたゾンビを作り出せる何者かが、この街に潜んでいる可能性があるわ」


 そうでなければ、地形を熟知した命令を下すのは不可能だ。

 さらにはあんな新鮮かつ屈強なゾンビ——元人間を無傷で手に入れられるとは思えない。


「それが……パパ?」


 と、戸惑った様子で言ってくるソフィア。

 エリゼはそんな彼女へと言う。


「というより、本物の王と入れ替わっているんじゃないかしら……例えばそう」


 ゾンビマザー。

 とかが。

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