第四十三話 エリゼは捕まってみる③
「……ゼ……て、エリ……」
と、聞こえてくるのは聞き覚えのある声。
同時。
ゆさゆさ。
ゆさゆさゆさ。
と、揺さぶられるエリゼの身体。
いったい何事か——現在、エリゼは少しでも眠って精神力と体力を回復させているところなのだ。
そうしなければ、いざという時に動けない。
エリゼはクレハとソフィア、そして街の住民たちのためにまだ戦わな——。
バシャッ!
と、全身に感じる液体の感覚。
その瞬間。
「!?」
と、エリゼは一気に目覚める。
すると真っ先に感じたのは、全身びしょびしょ水浸しな身体。
いったい何事か。
とりあえずは状況確認だ。
エリゼは若干パニクった頭を回し、すぐさま周囲を確認。
すると真っ先に見えてきたのは——。
「ん……起きた」
ソフィアだ。
というか気がつくと、エリゼの手足の拘束が外されている。
などと、エリゼがそんなことを考えている間にも。
「エリゼ……助けにきた。でもエリゼ起きないから、傷薬をぶっかけた……効いてきた?」
言って、ひょこりと首を傾げてくるソフィア。
なるほど、エリゼの全身を濡らしているものの正体は、要するにそういうことだったに違いない。
(そういえば、身体の痛みが一気に引いてきたわね)
凄まじい効能の傷薬だ。
それにしても。
「傷薬はありがとう。でもソフィア、助けにきたって……王はいいの!?」
「ん……知らない。パパは間違ってる。だって、エリゼはいい人……あたしの友達が捕まるなんて……変」
と、エリゼの言葉に対し返してくるソフィア。
エリゼはそんなソフィアを見て、重大なことに思い至る。
故にエリゼはソフィアへと言う。
「ソフィア! この街の水を飲んではダメ! 水がゾンビに汚染されているの——その水を飲み続けたら、ゾンビになってしまう恐れがあるわ!」
「……!」
「地下水路で見たのよ。水源の中でゾンビが蠢いているのを」
「どうしてそんな……なんでパパはそんな状況なのにエリゼを」
と、動揺した様子でなにかを考え出すソフィア。
けれど、彼女はすぐに思い直したように、エリゼへと言ってくる。
「エリゼ……とりあえず早くここから逃げよう。ここは危険……パパにバレたら、エリゼは殺されるかもしれない」
「でも逃げるってどうやって? それにクレハは……」
「ん……ソフィアがエリゼを連れてく、クレハも大丈夫。ここから少し離れた場所に、緊急の脱出通路がある——それを通れば、街外れにある墓地に出られる」
「……」
逃げたくは、ない。
けれど、状況的に今はそうするのが最善だ。
などなど、エリゼがそんなことを考えていると。
「エリゼ、墓地まで逃げられたらそこで…..ん、パパとここで話したこと、全部あたしにも話て」
「っ……それは」
「いい。ソフィアは気にしない……ん、ちゃんと聞いてから判断したい。これからソフィアがどうするべきか……このままパパに付き従っていていいのか」
「あまりオススメはしないけれど」
「さっき言った……別に構わない」
と、もう意志は決まった様子のソフィア。
彼女はエリゼへと手を差し出してくると、そのまま言葉を続けてくるのだった。
「ん……そろそろ逃げよう、エリゼ」
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