第四十二話 エリゼは捕まってみる②

「やぁ、エリゼくん。無事でよかった」


 と、言ってくるのは王様だ。

 彼はニコニコと優しそうな笑顔で、エリゼへと言葉を続けてくる。


「いや困ったよ。まさかキミが地下水路から、生きて帰ってくるとは思わなかったからね」


「あぁ、そういうこと」


「今更気がついたようだね、エリゼくん」


「そうね、我ながらバカすぎて呆れるわ」


 要するにエリゼ、最初から王様にハメられたに違いない。

 王様はエリゼを地下水路へと誘い込み、そこで殺害しようとしていたに違いない。


(今思い返してみると、不審な点はあったわ)


 例えばあの地下水路。

 まるでエリゼを誘い込むように、ホールへと続く通路にだけ松明が掛けられていた、

 あれは誘導されていたに違いない。


(道中ゾンビが居なかったのも、私を袋のネズミにして殺すため……ってところね)


 さらに、最後に出てきたあの騎士甲冑を来たゾンビ。

 あれなどまさにエリゼを殺すために、王が送り込んだに違いない。


 さて、となるとわからないことは二つだ。

 

 一つはどうして王が、エリゼのことを殺そうとするのか。

 そしてもう一つは——。


「お前……いったい何者?」


 と、エリゼは王を睨みつけながらいう。

 すると王はエリゼへと、ニコニコ笑顔を崩さずに言ってくる。


「そうだね。『モンスターを殺す力』を持つキミの敵、といったところだね」


「そう、街の人をゾンビにしようとしているのは、全てあなたの計画通り……ってこと」


「……」


 ニコニコ。

 と、無言で笑っている王。

 要するにエリゼが言った通り、ということに違いない。

エリゼはそんな王へと言う。


「ソフィアはこの事を知っているの?」


「ソフィア? あぁ、あの愚物は何も気がついていな——」


「愚物? 私の友達を悪く言うなら、例えあの子の親でも殺すわよ」


「怖い怖い! キミはボロボロなのに恐ろしい目をするなぁ……ひょっとしてキミ、ここから出れると思っているのかい?」


「ええもちろん、ここから出て後悔させてあげる——ソフィアを悪く言ったこと、死にたくなるまでね」


「無理だよ」


 と、エリゼを馬鹿にするような笑みを浮かべてくる王。

 奴はそのまま、エリゼへと言葉を続けてくる。


「キミ、気がついているかな? 今キミを拘束している鎖はね、魔法を一切使えなくするものだ」


「っ!?」


「事態がわかったようだね。魔法を使って脱出することは不可能ということだ」


「そう、魔法について詳しいみたいね……余計にあなたの正体に興味がでてきたわ」


「けれどキミがそれを知る必要はない——どうせここから出られないのだから」


 言って、エリゼへと背を向け牢から出ていこうとする王。

 エリゼはそんな奴へと言う。


「この、待ちなさいっ!」


「その必要はないね」


 と、エリゼを完全スルーして出て行ってしまう王。

 なかなかにムカつく展開だ。

 とはいえだ。


「何もできないのが口惜しいわね……まったく」


 クレハは無事なのか。

 ソフィアはどうしているのか。

 街の人は大丈夫なのか。


(いえ、今の私でも出来ることが一つだけある)


 身体を回復させる。

 とはいえ『ヒール』は使えない。

 となれば。


(少しでも眠って、せめて精神くらいは回復しないと)


 考えたのち、エリゼは瞳をゆっくりと閉じるのだった。

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