第四十一話 エリゼは捕まってみる

 時はあれから少し後。

 場所はセントポート、王の家の地下にある牢。


「いい加減喋ったらどうだ? なぁ……おいっ!」


 と、エリゼの髪を掴み上げてくる男。

 彼はそのままエリゼへと顔をちかづけてくると、至近距離で言ってくる。


「貴様が宝物庫から宝を盗んだだろぉが!! どこに隠した!?」


「宝、ね……そもそも殺人の罪で捕まったはずだけれど、随分と罪がコロコロ変わるわね」


「黙れ貴様ぁああああ!」


 ガッ!

 と、エリゼの後頭部を壁にぶつける拷問官。


「痛っ」


 と、思わずエリゼは声を出す。

 魔法の使いすぎで、ただでさえ痛かった頭が余計に痛くなる。

 思わず拷問官を殺したくなる……けれど。


(魔法をこれ以上使うのは危険というのもあるけれど、これでは抵抗できそうにもないのよね)


 と、エリゼは自らの手足に目をやる。

 すると見えてくるのは、頑丈そうな鎖で壁へと繋がれている自らの両手。そして、同じ鎖で地面へと繋がれている両足だ。


 いくらレベルの力を得ているとはいえ、流石にキツい。


 故に今は待つしかない。

 魔法を余裕を持って使えるようになるまで回復するか。

 はたまた、ソフィアが助けに来てくれるのを待つか。


(歯痒いわね。このクソ拷問官、さっきから『水が危険と王に伝えて』と言っても、まるで動く気配がないし……)


 などなど。

 エリゼがそんなことを考えていると。


 ドッ!


 と、聞こえてくる鈍い音。

 同時、エリゼの腹部に奔る痛み。


「おい、さっきから何余裕ぶってんだよ」


 と、聞こえてくる拷問官の声。

 奴はエリゼの腹を踏み潰すように蹴り付けたまま、言葉を続けてくる。


「宝の在処を吐かないって言うなら、こっちにだって考えがあるぞ」


「あらそう、その下卑た顔……そうなってくれた方が嬉しいのではなくて?」


「くく、くくくくくっ」


 と、エリゼから離れていく拷問官。

 奴は壁に掛けてあった鞭を手に取ると、再びエリゼの方はと近づいてくる。


「どうだぁ、怖いかぁ?」


 と、そんなことを言ってくる拷問官。

 奴の表情は露骨に楽しそうで、涎まで垂らしている。

 エリゼは思わず、そんな拷問官へと言う。


「死ね……このサディスト野郎っ」


「いいねぇ! 俺はテメェみたいな気の強い女が、泣いて許しを乞うようになるのを見るのがよぉ……大好きなんだよぉ!!」


 と、大きく振り上げる拷問官。

 そして次の瞬間。


「ぁ、ぐっ」


 と、漏れ出るエリゼの声。

 同時響き渡るのは、鞭が肉を叩く不快な音。


 痛い。


 さすがのエリゼも鞭で叩かれたことはなかったが、これは酷い痛みだ。

 叩かれたところが、あとから焼けるように痛んでくる。


「おい、痛いかぁ? なぁ、痛いよなぁ!?」


「うる、さいわね……このクソやろ——っ」


 と、拷問官の言葉に対し、エリゼが言い切る前に再び炸裂する鞭。


 そして再び襲ってくる痛み。

 そこからは地獄だった。


 ひたすらに聞こえてくる拷問官の笑い声。

 ひたすらに叩きつけられる鞭。


「っ……ぅ、あ」


 と、エリゼにはそれを耐えることしか出来ない。

 それでも、それでもだ。


(私、が……反応したら、こいつを楽しませることに、なるっ)


 そんなの絶対にさせない。

 故にエリゼは必死に悲鳴が出そうになるのを堪える。


「…….っ、…….!!」


「くく、いいねぇその顔! 必死に我慢してる顔、そそるよマジで!」


 と、エリゼに対して言ってくる拷問官。

 奴は嬉しそうに、楽しそうにより鞭を苛烈に叩きつけてくるのだった。


 ……。

 …………。

 ………………。


 いったいどれくらい経った頃か。

 気がつくと拷問官は居なくなっていた。

 きっとエリゼは途中で気絶してしまったに違いない。


 頭はまだかなり痛いが、少しはマシになってきた。

 けれどそれより、今は身体だ。


 痛すぎる。


 痛すぎてもう、どこが痛いのかわからない。

 エリゼはゆっくりと壁に頭を預け。


「もう……ほんっと、最悪……ね」


 と、そんなことを呟く。

 さて、誰も居なくなったところで少しは落ち着いて考えられる。


(いったいどうしてこうなったの?)


 何故エリゼは犯罪者扱いされているのか。

 クレハは無事なのか。


 疑問だらけだ。

 意味不明、理解不能。


 などと、エリゼがそんなことを考えていた。

 まさにその時。


「やぁ、エリゼくん。無事でよかった」


 と、聞こえてくる男の声。

 同時、エリゼの牢の前に姿を現したのは——。


 王様だった。

 

 



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