第四十話 エリゼは混乱してみる

「はぁ……もう、疲れたっ」


 と、エリゼはついに地下水路の出口——バリケードの前へと到着する。

 彼女は凄まじい頭痛に耐えつつ、バリケードの隙間から外へと出る。


「っ、眩しいわね」


 と、エリゼは思わず手をかざす。

 現在時刻はきっと昼少し前、十分許容範囲内だ。

 あとは王様の元へと向かい、街の水が危険かもしれないということを——。


「貴様がエリゼだな、動くな!」


 と、エリゼの思考を断ち切るように聞こえてくる声。

 エリゼは何事かと、すぐさま周囲を確認する。

 すると見えてきたのは——。


「貴様は包囲されているぞ!」


「この大罪人め!」


「武器を持っているのならすぐに捨て、その場で腹這いになれ!」


 武器を手にそんなことを言ってくる兵士達の姿だ。

 意味がわからない。


(え? エリゼって……えっと、私に言っているのよね?)


 いったいどうしてこうなっているのか。

 などと、エリゼがそんなことを考えている間にも。


「早くしろ!! もし抵抗するのなら、こちらにも考えがあるぞ!」


 と、言ってくる兵士。

 今なお何が起こっているかわからない。


 だがしかし、今はこの誤解をどうにかするのが優先だ。

 故にエリゼはその兵士へと言う。


「ちょっと待って! 私は王様の依頼で、地下水路に行っていたのよ!? そこにいるゾンビ達を討伐して——」


「黙れ!! 我らの王が、貴様のような犯罪者などに頼みなどするものか!!」


「犯罪、者!? いったい何を言って——」


「とぼけるなこの連続殺人鬼め!! 貴様の仲間はすでに捕縛している! もしも抵抗するのなら、仲間がどうなるかわからんぞ!!」


「っ!」


 この兵士、今なんと言ったのか。

『仲間』と言ったのか。


 クレハだ。


 クレハのことしか考えられない。

 どうする、いったいどうすればいい。


(兵士たちが何か誤解しているのはたしか……このまま捕まる?)


 本当にそれでいいのか。

 けれど抵抗した場合はクレハが危ない。

 それにそもそも。


 ズキッ、ズキッ。

 ズキンッ。


 と、襲ってくる凄まじい頭痛。

 これ以上の魔法は使えないと考えられる。

 となると、使える武器は拳のみ。


(形勢も不利、よね…..)


 不本意だが仕方ない。

 エリゼはそんなことを考えた後。


「……」


 無言でゆっくり地面へと腹這いになる。

 するとすぐさま。


「今だ、捕らえろ!!」


 と、聞こえてくる兵士たちの声。

 同時、エリゼはやってきた兵士たちに瞬く間に拘束されて——。


「待って!」


 と、聞こえてくる少女の声。

 ソフィアだ。彼女はエリゼの方へとやってくると、すぐさま兵士たちへと言う。


「エリゼに何をしているの……ん、エリゼはあたしの友達!」


「し、しかし!!」


「今すぐ解放して! 解放しないと……許さない!」


「待ってください! これは王からの命令です!! いくらソフィア様からの命令でも——」


「パパ、の!? どうしてそんな……」


 と、辛そうな……そして混乱した様子の表情をするソフィア。


 エリゼはその表情を見て胸が痛くなる。

 友達を困らせてしまっている。


(やれやれ、まさかこんな気持ちになるなんてね……)


 などなど。

 エリゼはそんなことを考えた後、兵士達へと言う。


「早く連れて行って」


「エリゼ!!」


 と、エリゼの言葉に対して言ってくるソフィア。

 エリゼはそんな彼女へと言う。


「大丈夫、きっと何かの間違いよ! だからソフィア、あなたは心配しなくても大丈夫」


「っ……絶対に、ソフィアがなんとかする」


「えぇ、ありがとう」


「帰ったらパパにすぐに話す!」


 と、そんなことを言ってくれるソフィア。

 本当に優しくていい友達だ。


 エリゼはそんなことを考えながら、無抵抗で兵士たちに連れていかれるのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る