第三十九話 VSゾンビ③

「ここからはなりふり構わず、後先も考えずにいかせてもらうわ」


 エリゼは今回の地下水路探索にて、なかなかの回数の魔法を使ってきた。

 だからこそ、これ以上はあまり使うまいと出し渋っていた感がある。


 なんせ、エリゼは魔法を使いすぎると頭痛がしてくる。

 それが酷くなると気絶してしまうのだ。


(急いでいるこの状況で、そんなことになったら事だものね)


 だがそれはなしだ。

 それで負けるようなことがあれば本末転倒。

 ただのアホだ。


「殺す、エリゼ、殺す……こ、こここ、殺すっ」


 と、エリゼへと向きなおってくるゾンビ。

 エリゼはそんなゾンビへと手を翳し——。


「特殊魔法『触手』」


 と、触手を召喚する。

 だが、これで終わりではない。


 きっとこのゾンビならば、触手の一本や二本くらい切り落とせるに違いない。

 ならば。


「特殊魔法『触手』特殊魔法『触手』特殊魔法『触手』特殊魔法『触手』特殊魔法『触手』特殊魔法『触手』特殊魔法『触手』特殊魔法『触手』特殊魔法『触手』特殊魔法『触手』特殊魔法『触手』特殊魔法『触手』」


 触手触手触手触手触手触手触手触手触手。

 地下水路を埋め尽くすように現れたのは、大量の触手の群れ。


「痛っ」


 と、エリゼの頭に奔る凄まじい痛み。

 意識が飛びそうだ。

 けれど。


「私の命令に従って、そいつを殺しなさいっ!」


 エリゼはふらつきながらも、触手達へと命令をくだす。

 その直後。


 ドゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ!


 縦横無尽。

 あらゆる方向から一斉にゾンビを打ちつけ始める触手たち。


 けれど、驚いたことになんとゾンビ……瞬殺されていない。

 凄まじい速度で大剣を振るい、撃ち漏らしはあるものの殆どを防御している…..が。


「あは♪ 隙だらけっ」


 言って、エリゼは地面を蹴り付け疾走。

 彼女は触手達の合間を縫い、ゾンビの元へと辿り着く……そして。


 ガッ!


 と、エリゼはゾンビの顔面を鷲掴みにする。

 そこから続けて——。


「死ね…..攻撃魔法『ファイア』!」


 迸る爆炎。

 吹き飛ぶゾンビの頭部。


 ……。

 …………。

 ………………。


 バタッ。


 と、少しの静寂の後倒れるのは頭部を失ったゾンビ。

 要するにエリゼの勝利だ。


「まったく、ゾンビのくせに強敵だったわね……」


 本当ならばレベルが上がったか、確認したいところだ。

 けれど今のエリゼにそんな時間的余裕はない。

 さらにはだ。


「あ〜もう、痛い……わねっ」


 頭痛がやばい。

 気を抜くと意識を失ってしまいそうだ。

 無論、ここでそうなるわけにはいかないが。


 などなど。

 エリゼはそんなことを考えたのち、痛みに耐えながらも地下水路を再び走り出すのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る