第三十七話 VSゾンビ
「うぅ……ぁああああああっ」
「ぁっ、うぅ」
と、様々な方向から聞こえてくるのはゾンビの声だ。奴らは現在エリゼがいる場所——ホールへと繋がるいくつもの通路から、次々にやってきている。
「上等よ、邪魔するなら殺してあげるわ!」
言って、エリゼは剣を抜く。
確かにゾンビの数は多い——見た限りで二百をゆうに超えている。
エリゼの当初の目的はゾンビの殲滅。
故にゾンビが沢山いるこの状況は、好都合と言えば好都合と言えた。
(さすがにこれほどの数を、一気に相手することになるとは思わなかったけれどね)
エリゼはもう慢心も油断したりもしない。
故にこの数のゾンビ相手に、安全に勝利を収められるとは思わない。
(それにそもそも、『街の水が危ないということを、王様に伝える』という目的ができた以上は!)
目的と勝利条件を変える必要がある。
それはただ一つだ。
地下水路——まずはこのホールからの脱出だ。
要するに、ゾンビ達による包囲網の突破。
(この場のゾンビ全員を倒す必要はないし、そんな時間は惜しい!)
ならば狙うは一点突破。
最短最速で来た道を引き返す。
と、エリゼは己が進んできた方——松明が灯っている通路を見る。
そして。
ダッ!
と、地面を思い切り蹴り付け疾走。
ゾンビの壁へと接敵。
(まずはこの一撃をもって、突破口を作る!!)
考えた後、エリゼは正面へと手を翳す。
そして。
「特殊魔法『触手』!」
直後、現れたのは魔法陣から這い出る太く長い触手。
それはエリゼの意志に従い、凄まじい勢いでゾンビの壁へと突っ込んでいく。
「うぅ」
「ぁああああああっ」
と、触手に突っ込まれたことにより、吹き飛ばされる何体ものゾンビ。
だがこれで終わりではない。
「っ!」
と、エリゼは跳躍——そして、自らが召喚した触手の上へと飛び乗り。
触手の上を走った。
そう。
エリゼは初撃でゾンビの群れを割ると同時、自らが通る道を作ったのだ。
だがしかし。
「ぅううううううううっ!」
と、触手の上を走るエリゼの足へ、手を伸ばしてくるゾンビ。
しつこいことこの上ないが想定内だ。
(そのための剣だもの)
考えたのち、エリゼは剣を振るう。
ひたすらに。
斬ッ!
斬ッ! 斬ッ!
エリゼへと近づいてくるゾンビの手を、片っ端から切りまくり。
「特殊魔法『触手』!!」
言って、エリゼは2本目の触手を召喚。
先ほどと同じく、ゾンビの群れを割りつつ自らが走るための道を作り出す。
こうなってくれば簡単だ。
「ぁああああああっ!!」
と、またも手を伸ばしてくるゾンビ。
エリゼはそんなゾンビの手を切り落としつつ跳躍——先ほど生み出した触手の上へと飛び乗り、そこを再び走り出す。
さらに。
「さぁ、暴れなさいな!」
と、最初に出した方——足場としての意味を失った触手へと命令を下す。
直後。
地獄が顕現した。
まさに血の海。
ゾンビを掴んでは投げ。
ゾンビを貫いては千切り。
ある時はゾンビを掴んだままフレイルのように振り回し。
エリゼの背後では、触手によるパレードが始まっていた。
(暴れろって命令をしておいてあれだけれど……まさかあれほどに強烈な暴れ方をするなんてねぇ)
けれど考えてみれば当然だ。
この『触手』はスライムマザーのもの。
言ってみれば、スライムマザーが暴れているのと同じなのだ。
要するに。
スライムマザーVSゾンビ。
そんなのアレだ。
強烈な戦いになるに決まっている。
「おっと……っ」
言って、エリゼは迫ってきていたゾンビの手を切り落とす。
今のは危なかった。
(油断しないとか言って、思い切り油断していてわね)
レベルの概念を持つエリゼがゾンビに噛まれた際、いったいどうなるかがわからない。
果たしてゾンビ化するのかしないのか。
(確信がない以上、ゾンビからの攻撃はくらう訳にはいかないわよ、ね!)
と、再びの斬撃。
そして再びの特殊魔法『触手』の使用。
防御と道の作成。
道の作成と防御。
エリゼはひたすらにこれを繰り返し、瞬く間にホールを突き進んでいき……ついには。
「はい、到着っと!」
通路への無事に到達する。
エリゼは背後を振り返り、ゾンビ達へと言う。
「一気にホールに突入してきたのが、逆に仇になったわね。通路が手薄——一度突破すればこの通りよ」
と、エリゼは周囲を見回す。
そんな彼女の周囲には、片手で数えるほどのゾンビしかいない。
所詮はゾンビ。
要するに奴ら、突破された際の後詰めを用意していなかったのだ。
となればあとは簡単。
「蹂躙なさい……弱点は頭部よ」
と、エリゼは召喚していた全ての触手へ、改めて命令を下す。
すると触手達が始める虐殺の宴。
(案外全滅、できるかもしれないわね…..おっと)
こうしてる場合ではない。
エリゼは付近にいたゾンビに剣撃を与え、行動不能にした後。
「あとは任せたわよ!」
この場は触手達に任せ、全力で通路を走り抜けるのだった。
ソフィアを……クレハの街の人を救うために。
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