第三十五話 エリゼはゾンビを知ってみる

「ぅううう、ぁあああああああっ!」


 と、聞こえてくる不気味な声。

 同時、影から掴みかかろうとしてきたのはゾンビだ。


「さっそく出てきたわね!」


 言って、エリゼは腰から剣を抜き構えながら、飛び退ってゾンビの攻撃を躱す。

 すると。


「うぅ……」


 と、ゾンビはバランスを崩して倒れかける。

 エリゼはそれを見て思う。


(なるほど、このゾンビは地上で見たやつよりも腐敗が進んでるわ)

 

 だからきっと、体の筋肉が衰えているのだ。

 故に攻撃を躱されただけで、こうもバランスを崩すに違いない。


(ということは、ゾンビはゾンビになった年月が長いだけ弱くなる?)


 先日調べた際は皮膚の腐敗だけに目をやってしまった。

 しかし、考えてみれば皮膚が腐るのならば、筋肉も腐るのも道理だ……つまり。


(ゾンビは個体によって強さが変わるってことよね? だとしたら、ゾンビは一律に強さを決めつけない方がよさそうね)


 けれどだ。

 目の前の個体が、弱い部類のゾンビというのは確かだ。

 ならば。


「まずはこいつで実験する!」


 それはゾンビの弱点についてだ。

 現状、エリゼはゾンビの弱点について、なんとなくしか把握していない。

 それゆえに——。


 ザシュッ。


 エリゼはゾンビの胸へ、真っ直ぐに剣を突き立てた。

 通常の人間ならば、間違いなく即死する攻撃——きっと『ヒール』を使っても回復には至らないに違いない……だが。


「ぁぁ〜っ」


 と、平然とした様子でエリゼへと手を伸ばしてくるゾンビ。

 やはりここが効かないのは外の時と一緒だ。

 ならば続けて。


 斬ッ。

 斬斬ッ!


 と、エリゼは剣を引き抜くと同時、ゾンビの手足へと攻撃。

 するとゾンビは倒れるが、やはり生きている。


「うぅ、ぁあああああっ」


 と、胴体だけを使ってエリゼの方へと近づいてくる。

 呆れた生命力だ…..しかし。


「これで終わり!」


 言って、エリゼはゾンビの頭部へと斬撃を与える。

 すると今度こそ動かなくなるゾンビ。

 これでハッキリわかった。


(頭部以外への攻撃は殆ど意味がないってことね。意味があるとすれば、足に攻撃して動きを遅くさせるくらい)


 まったく厄介な敵だ。

 攻撃魔法『ファイア』などを通常通り使用しても、燃えてるだけでそのまま近づいてくる可能性が出てきた。


(特殊魔法『触手』は使えそうだけど、基本は接近戦で戦う必要が出てきたわね)


 けれどまぁ、ゾンビ自体がそこまで強くなさそうな敵でよかった。

 この程度の身体能力ならば、今のエリゼで十分対処可能だ。


 などなど。

 エリゼはそんなことを考えながら、地下水路をさらに奥へと進んでいくのだった。

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