第三十四話 エリゼは突入してみる

 時は翌朝。

 場所はセントポート——地下水路の入り口。


「ものすごいバリケードね。こんなに頑丈そうなのに、ゾンビがいったいどうやって……」


「ん……水路は他にもたくさん出入り口がある」


 と、言ってくるのはソフィアだ。

 彼女はそのままエリゼへと言葉を続けてくる。


「一応全部を塞いでいるけど、立地によってはこんなに頑丈なバリケードを作れないところがある……難儀」


「そういうところがたまに壊されて、ゾンビが出てきていると? でもそれなら、そこだけ重点的に……いえ、愚問だったわね」


 きっと、重点的に偵察してなおこの状況に違いない。

 でなければ、そもそも王がエリゼに頼んで来るとは思えない。

 完封できるのなら、ゾンビを隔離してそのまま放置でもさして問題ないはずなのだから。


 などなど。

 エリゼがそんなことを考えていると。


 くいくい。

 くいくいくい。


 と引っ張られるエリゼの袖。

 見ればそこにいたのはクレハだ。

 彼女はソフィアを指差し、エリゼへと言ってくる。


「なぁなぁ、エリゼはいつの間にソフィアと仲良くなったんだ?」


「あら、その言いよう……ソフィアを知っているの?」


「知ってるぞ! だって王様の娘で、この街の兵士たちを率いているんだ! ソフィアは有名人だ!!」


 確かにそういえばそうだった。

 ひょっとするとエリゼ、すごい人と友達になったのかもしれない。


「それにな! ソフィアの剣はクレハが作ったんだ!」


「ん……これは名剣」


 と、聞こえてくるクレハとソフィアの声。

 仲が良さそうでなによりだ。


(友達同士が仲がいいと、なんだか嬉しくなってくるわね)


 さて、ここで立ち話しているのもなんだ。

 目的地にはすでに到着していることだし。


「それじゃあ、そろそろ私は行ってくるわね」


「それじゃ、クレハも行ってくる! ここで一旦お別れだな、ソフィア!」


 と、エリゼに続いて言ってくるクレハ。

 だがしかし、エリゼにはクレハへと言うことがある。


「クレハにはここで待っていてもらうわ」


「……え」


 と、エリゼの言葉に対し愕然とした様子のクレハ。

 エリゼはそんな彼女へと言う。


「地下水路の中は何があるかわからないから、クレハは外で待っていて」


「で、でも! エリゼのそばの方が安全なんだ!!」


「さすがにそれはないわ。だって地下水路の中と外では、ゾンビが出る確率は段違いだもの」


 エリゼがいなければゾンビ倒せない——それを加味しても、エリゼと来るより外で待っていた方が安全に違いない。


「うぅ〜でもぉ!」


 と、納得いかない様子のクレハ。

 エリゼはそんな彼女へと言う。


「帰ってきたら、クレハにこの街の案内を頼みたいの…..だから、その準備をしていてくれると嬉しいわ」


「案内の準備! エリゼがクレハを頼りにしてくれるなら、クレハはそうするぞ!」


「頼りにしてるわ、いつだってね」


 言って、エリゼは腰の剣へと手をやる。

 この剣は先程、クレハがスキルで作ってくれた剣だ。

 本当にありがたい限りだ……さて。


「それじゃあ、今度こそ行ってくるわね」


「了解だ! クレハは準備して待ってるぞ!」


「ん……気をつけて」


 と、エリゼに続いて言ってくるのはクレハとソフィア。

 エリゼは二人に背を向けた後、バリケードに隙間を作り、そこから地下水路に入っていく。

 するとすぐに——。


「臭いわね……肉が腐ったような」


 と、エリゼは思わず呟いてしまう。

 けれど、すぐに彼女は思い至る。


(酒場のゾンビは成り立てだったけれど、これが本当のゾンビの臭い?)


 あのあと調べたところによると、ゾンビになった人間は例外を除き、大抵はどんどん皮膚が腐っていくそうなのだ。


 それが正しければ、この臭いにも納得がいく。

 要するにこの地下水路は、間違いなくゾンビの巣窟になって——。


「ぅううう、ぁあああああああっ!」


 と、エリゼの思考を断ち切るように聞こえてくるのは声。

 同時、エリゼの目の前に飛び出してくるのは一体のゾンビ。


「さっそく出てきたわね!」

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