第三十三話 目指せ友達百人

「ふぅ〜、さっぱりしたぞ!!」


「えぇ、そうね……あんなに綺麗で広いお風呂に入ったのは久しぶり」


 と、クレハの言葉に対しエリゼは返す。

 というかだ。


(なんならお風呂に入れたこと自体久しぶりね……奴隷だった頃は、溜まった雨水で体を洗っていただけだもの)


 さっぱりどころか気分爽快だ。

 エリゼはそんなことを考えながら、クレハと共にリビングへと戻ってくる。

 その瞬間。


「ふかふかベッドだ!」


 ボフッ!

 と、ベッドへと飛び込んでいくクレハ。

 彼女はそのまま手足をバタバタ、まるで泳ぐような仕草を見せた後——。


「くかぁ……んぅ」


 と、スイッチが切れたように眠ってしまうクレハ。

 それも仕方がないことに違いない。


 なんせ今日はここまで歩き通し。

 その後に歓迎会に参加してからの、王様と会ってからのハシャギ通し。


(お風呂に入るのも、結構疲れるって聞いたこともあるしね)


 実際、そういうエリゼも結構眠い。

 と、エリゼがそんなことを考えていると。


 コンコン。


 聞こえてくるのは、扉を叩く音。

 その直後。


「ん……入っていい?」


 聞こえてきたのは、感情の起伏をあまり感じられない少女の声。


(いったい誰かしら?)


 別に王様からは特に、誰か来るとは言われていない。

 さらにここは王が暮らす家——一般人が歩き回れる場所とも思えない。


(となると、王様にかなり近い関係者…..といったところかしらね?)


 まぁ、いろいろ考えるよりも確かめる方が早い。

 エリゼはそんなことを考えた後、扉の外の人物へと言う。


「どうぞ、入ってちょうだい」


「ん……ありがとう」


 と、聞こえてくる少女の声。

 同時。


 ガチャッ。


 と、扉を開いて入ってきたのは、エリゼやクレハよりも見るからに歳下な少女。

 白髪ツインテール、なんだか気だるそうな瞳……そして全身をつつむ白銀の騎士甲冑。


 なんだか見覚えがある。


 間違いない。

 先ほど、エリゼ達を玉座の間へと案内してくれた子だ。

 そんな彼女はエリゼの方へとやってくると、そのまま言葉を続けてくる。


「さっきぶり……あたしはソフィア」


「さっきぶり、私はエリゼよ」


「ん……知ってる」


 と、さらに近づいてくるソフィア。

 彼女はなかなかの至近距離でエリゼを見つめてくると。


「……」


 無言だ。

 ただひたすらジーっと見つめてくる。

 エリゼは耐え切れず、そんなソフィアへと言う。


「えっと、何かしら?」


「ん…….あたしはパパの娘。この街の王女様……同時に兵士たちのまとめ役もしてる」


「王女様……あら素敵ね♪」


 この小さくて可愛らしい容姿。

 そこに王女ときたら、可愛いと思わざるをえない。

 なんせ、完全に物語の中の人物といった様子だ。


 エリゼはもっとソフィアを観察したい欲を収え、そんな彼女へと言う。


「それで、その王女様が何をしにきたのかしら?」


「ん……まずはお礼。街の住民を守ってくれて、本当にありがとう」


「それはもういいわ。あなたのお父さんにも言われたもの」


「ん……じゃあもうそれはいい」


 と、ため息をつくソフィア。

 彼女はその後、エリゼをジッとさらに見つめてくると。


「友達になって」


「……え?」


 と、エリゼはソフィアの言葉に対し、思わずそんな言葉を返してしまう。

 けれど、ソフィアはエリゼを気にした様子なく、そのまま言葉を続けてくる。


「パパから聞いた! エリゼはモンスターを殺せる……すごい! 友達になって欲しい……あたし、エリゼから色々お話を聞きたい! あたし、エリゼにとっても興味がある!!」


 ガシッ!

 と、エリゼの手を掴んでくるソフィア。

 彼女は瞳をキラキラ、エリゼへと言葉を続けてくる。


「どうして? どうやってモンスターを倒せるの? ん……あたし、ソフィアのことがもっと知りたい」


「え、えっと」


 やばい。

 圧が凄すぎて、言葉が出てこない。


 というか。

 というか……。


(と、友達になりたいって言われたわ!!)


 友達、友達だ。

 ひょっとして、クレハ以外にもワンチャン友達ができるというのか。


(ま、まだよ! 慌てるのはまだ早いわ! で、でももし友達がここでもできるのなら……いつか達成できるかもしれない)


 小さい頃に夢見た計画。

 エリゼの友達百人プラン。


 思い出す。

 小さい頃に両親から言われた『エリゼなら友達を百人くらい作れるわ』という言葉。

 友達、欲しい。


(クレハと居ると、かなり心が落ち着くわ……あんな素敵な存在が増えるのなら、それはきっと復讐と同じくらいいいものよね?)


 などなど。

 エリゼがそんなことを考えていると。


「ん……やっぱりいきなり友達にはなれない?」


 と、エリゼが黙っていたのを勘違いしたに違いないソフィア。

 彼女は「だったら」と呟いた後、エリゼへと言葉を続けてくる。


「まずはあたしについて教える……大切なあたしの秘密から」


 と、そんなソフィアが伝えてきたのは自らのスキルについてだ。

 それは——。


スキル『支配者』

 支配下の能力を高めることができる。


 なんでもこれ。

 支配下——住民のあらゆる能力を高めることができる。


 といったものらしい。

 そしてこれ、一族に代々伝わるものらしいのだ。


(なるほど。この街に王が居たり兵士がいるのは、単に街の人数が多いからってだけではないみたいね)


 ソフィアとこの街の王が持つスキル。

 スキル『支配者』は名前の通り、まさしく統治制に相応しいスキルだ。


 というかこれ。

 一族代々伝わるスキルとなると、秘蔵のものに違いない。

 こんな簡単に教えても——。


(いえ、それほど私と友達になってお話したいってことかしらね)


 そこまでされれば、エリゼも応えなければ失礼というもの。

 というか、普通に応えたい。


 エリゼはそんなことを考えた後、ソフィアへと語っていくのだった——エリゼとモンスターの戦いについて、そして自身のスキルについてを。


 ……。

 …………。

 ………………。


 さてさて。

 そうして三時間後。


「で、私はさっきゾンビを倒したのよ」


 言って、話を締めくくるエリゼ。

 ようやくエリゼはここまでの旅の全てを、ソフィアへと話し終える。

 すると。


「すごい……エリゼはとってもすごい。ん……エリゼはモンスターと戦うのが怖くないの?」


 と、言ってくるのはソフィアだ。

 エリゼはそんな彼女へと言う。


「もちろん怖いわ。でも、私にはそれを我慢して余りあるほどの目的が——」


「世界の救済……?」


「え?」


「ん……エリゼの目的は世界の救済? それ以外に考えられない……世界からモンスターを絶滅させるために、エリゼは旅をしてる?」


「あ、え?」


「だからエリゼはスライムマザーと戦って倒した……ん、この街にもゾンビを倒すために来てくれた」


「え、えっと……私は別に」


「エリゼは勇者様?」


「……そ、そうよ(キリ)」


 やばい。

 ソフィアの期待の瞳に押されて、妙な嘘をついてしまった。


(で、でも完全に嘘でもないわ。復讐をより効率的に楽しむために、モンスターを狩ってレベルをあげる——それが私の目的でもあるもの)


 ふと思ったが、エリゼは勘違いされまくっている気がする。

 クレハにも町の人を守ろうとしたとか思われているし。


(まぁ、私が日和って嘘をつくのが悪いのだけれど)


 などなど。

 エリゼがそんなことを考えていると。


「ん……あたし、間違ってた」


 と、ショボンとした様子で言ってくるソフィア。

 彼女はそのままエリゼへと言ってくる。


「あたし、エリゼと友達になれない」


「え……な、なんでそうなるのよ!?」


「だって、エリゼはあたしよりもすごい人……あたしなんかより、とってもすごい人。だから……あたしが友達になる資格なんて」


「友達よ! 友達宣言したならもうずっと友達! 私の数少ない友達を奪うやつは、友達でも絶対に許さないわ!」


「……!」


「だから、ソフィアはあたしの友達よ!」


 友達宣言しといて友達になれない。

 なんていくらなんでも、上げて下げるがすぎる。

 友達宣言したなら、最後まで友達で居てもらわなくては。


 などなど。

 エリゼがそんなことを考えながら、ソフィアの手をガシっと掴んでいると。


「ん……じゃあ友達、嬉しい」


 と、僅かに微笑んでくれるソフィア。

 そんな彼女の笑顔は——。


(うっ、かわいい)


 ここでエリゼは改めて思う。

 復讐も大事だが、友達百人もやはり大事だ。


「ん……エリゼ、あたしはそろそろ帰る」


 と、ふいに聞こえてくるソフィアの声。

 彼女はエリゼへと言葉を続けてくる。


「ここにはパパに秘密で来たから、そろそろ帰らないと……それにエリゼもそろそろ寝ないと。明日はエリゼ……忙しい」

 

 そういえばそうだ。

 明日は朝から地下水路でゾンビ討伐。

 ソフィアとの会話が楽しくて忘れていた。


「ん……それじゃあ、おやすみ」


 と、言ってくるソフィア。

 エリゼはそんな彼女へと言うのだった。


「おやすみなさいソフィア。私の二人目の友達」

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