第三十二話 エリゼは王様に会ってみる

 結論から言おう。

 当然だがゾンビは死んだまま復活しなかった。

 結果。


「すごい! 本当に王様だ!! クレハ、初めて見た!!」


 と、ウキウキした様子で言ってくるのはクレハだ。

 さてさて……。


 時はあれから少し後。

 場所はセントポート中央、一際大きな建物——その最奥、玉座の間。


(王様、ね。物語の中にしか居ないと思ったけれど、今でも本当に存在しているのね)


 改めて思うが、本当に街によって文化が違って少し面白い。

 などと、エリゼがそんなことを考えている間にも。


「王様だ!! 王様なんだ!! わーい!!」


 小躍りしているのはクレハだ。

 そして、そんな彼女の前では——。


 ニコニコ。

 ニコニコニコ。


 と、見るからに優しそうな様子で玉座に座り、微笑んでいるのは高齢の男性だ。

 杖を持ち王冠を被り、美しいローブを着ていることから、間違いなく彼が王に違いない。


「ん……あたしはこれで失礼する」


 と、ふいに扉の方から聞こえてくるのは少女の声。

 白髪ツインテール、なんだか気だるそうな瞳……そして全身をつつむ白銀の騎士甲冑。

 そんな彼女はエリゼを一瞥したのち、玉座の間から出て行ってしまう。


(この建物に入ってからは、彼女がここまで案内してくれたのだけれど、とても可愛かったわね……王様の護衛かしら?)


 まぁいい。

 今はそれよりもだ。


(やっぱり緊張するわね)


 当然だ。

 エリゼはこういう場所とは無関係だったのだから。

 と、エリゼがなんだかモジモジしている間にも——。


「キミがエリゼくん、そしてキミがクレハくんだね?」


 と、言ってくるのは王様だ。

 彼はまずクレハへと視線を向け、そのまま言葉を続ける。


「キミが作った武器には、いつもすごくお世話になっているよ。ありがとう」


「褒められた! わ〜い!」


 と、ピョンピョンしているクレハさん。

 なんだか彼女が喜んでいると、エリゼも嬉しくなってくるから不思議だ。


 などなど。

 エリゼがそんなことを考えていると。


「そしてエリゼくん、我が住民達を助けるためにゾンビを倒してくれたこと、本当に感謝する」


 と、言ってくるのは王様。

 彼はそのままエリゼへと言葉を続けてくる。


「ところで、いきなりだが本題に入らせてもらおう……構わないね?」


「ええ、私もその方が好みですから」


「うむ、それでは率直に言うが——この街は今、ゾンビによる深刻な危機に晒されている」


「……」


「街の住民にはまだ内密にしているが、地下の水路に深刻な被害が出ている」


「それはつまり、街の地下が巣になっているということ?」


「そう捉えてもらって問題ない。まったくどこから紛れ混んだのか……今はなんとか水路の出入り口にバリケードを築いてはいるが——」


「抑えきれていないと?」


「……うむ」


 と、ゆっくりと頷く王様。

 彼はその後、エリゼへと言葉を続けてくる。


「さっそくだが、我々を助けてくれないか? キミにはモンスターを殺す力があると聞いた……地下のゾンビをなんとか出来ないか? もちろん報酬もある……キミが要求するだけ渡そう」


「……」


 さて、どうしたものか。

 ぶっちゃけただのモンスター討伐など、クソほども面白くない。


 だって復讐ではない。

 

 だがしかし。

 ここはクレハの街だ。


(友達の街の一大事を放っておけるわねもないしね)


 それになにより、これはきっとクレハへの恩返しにもなる。

 考えたのち、エリゼはクレハをチラリとみる。

 すると。


「?」


 ひょこりと首を傾げてくるクレハ。

 きっと彼女は恩がどうのとは、まったく思っていないに違いない。

 だからこれはエリゼの自己満だ。


「えぇ、構わないわ。地下のゾンビ——間違いなく皆殺しにしてあげる」


「おぉ、感謝する! それではエリゼくん、クレハくん……今日は夜も遅い、是非我が家にて休んで行ってくれ」


 と、エリゼの言葉に対し言ってくる王様。

 エリゼとクレハはそんな彼の言葉に、二人揃って頷くのだった。

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