第二十七話 エリゼは試してみる

 時は翌日の朝。

 場所はエリゼの町から、クレハの街へ向かう道中。


「エリゼ、モンスターだ! モンスターが居たぞ!!」


 と、言ってくるのはクレハだ。

 エリゼは彼女が指差した先をみる。

 すると見えてきたのは。


「ブゴッ」


「ブギィイイイイッ!」


 と、木製の槍を持った二足歩行の豚型モンスター——オークだ、それも二匹。

 奴らもすでにエリゼたちを捕捉しているに違いない——槍でエリゼたちを威嚇してきている。


 さて、少し遅れたが。

 エリゼたちがこうしてモンスターの前にいる理由は簡単。


 一つは現在、エリゼ達はクレハの街へと向かっている最中だからだ。

 クレハはそもそもその街から攫われてきた人間——恩返しも兼ねて送り届ける最中なのだ。

 その途中でモンスターに遭遇したわけだ。


 そうしてもう一つ、実はエリゼはモンスターを探し歩いていた側面もあるのだ。


「これで新しく手に入れたスキルと、レベル7の力を試せるわね」


 言って、エリゼは自らのステータスに書かれていたことを思い出す。

 それは。


レベル7

 剣技:一閃

 攻撃魔法:ファイア

 回復魔法:ヒール

 特殊魔法:触手


 試したいスキルは二つ。

 剣技『一閃』と、特殊魔法『触手』だ。


 特に後者。

 特殊魔法『触手』が気になる。


(なんていったって、これはスライムマザーから得た戦利品のようなスキルだからね)


 試したくないわけがない。

 などと、エリゼがそんなことを考えた。

 まさにその瞬間。


「ブゴォオオオオオオオッ!」


 と、痺れを切らせたに違いない。

 槍を構えて突撃してくる二体のオーク。


「え、エリゼ!」


「大丈夫よ、クレハは下がっていて」


 と、エリゼはクレハの言葉に対し返す。

 そして、彼女はすぐさまオーク達へと手を翳し——。


「特殊魔法『触手』!」


 と、エリゼがそう言った直後。

 エリゼの目の前が不自然に発光し始める——やがてそれは光の魔法陣を形作っていき。


 ズァ!!


 太く長く見覚えのある触手が、光の魔法陣から這い出てくる。

 そう、スライムマザーのものだ。


「ブゴッ!?」


 と、驚いた様子で立ち止まる二体のオーク。

 けれどもう遅い。


 エリゼが召喚した触手。

 それはまるで意志を持つかのように、グネグネとうねったのち——凄まじい速度でオーク達の元へと伸びていき。


 ギュルルルルルルルッ!


 と、オーク二体をまとめて縛り上げてしまう。

 オークはなんとか抜け出そうとしているに違いない——必死な様子で暴れまくっているが。


(すごい強度と力ね、この触手。私の扱い方次第で、いろいろな応用が効きそうね)


 さて、特殊魔法『触手』の効果は試せた。

 あとはもう一つ。


「エリゼ! これ、剣を作っておいたぞ!!」


 言って、エリゼの側へとやってくるのはクレハだ。

 彼女は『刀剣創造』で作り出した剣を、エリゼへと渡してきてくれる。


 エリゼはその剣を受け取る。

 そしてその後、彼女はクレハへと言う。


「ありがとう、クレハ」


「これくらいクレハにお任せだ!」


 ポンッと、自らの胸を叩くクレハ。

 エリゼはそんな彼女に微笑んだのち、触手で縛り上げられているオークへと目を向ける。

 そして——。


 ダッ!


 と、エリゼは地面を蹴って一気にオーク二体の元へと疾走。

 レベル7になっていることもあり、エリゼは瞬く間にオーク二体を間合いに収め——。


「剣技『一閃』!」


 エリゼは即座にスキルを発動し、オーク達へと剣を振るう。

 その直後。


「っ!?」


 と、エリゼ本人ですら驚くほどに加速する剣閃。

 それはそのままの速度で、オーク二体を同時に両断する。


 まさしく瞬殺。


(なるほど、ね。剣技『一閃』は斬撃を加速させて、必殺の一撃を放つスキルで間違いなさそうね)


 これは当たりだ。

 剣技『一閃』も特殊魔法『触手』も、どちらも今後の冒険に大いに役立ってくれるに違いない。

 などなど、エリゼがそんなことを考えていると。


「すごい、すごいぞエリゼ! まるで絵本の剣豪みたいだ!!」


 と、瞳をキラキラ言ってくるクレハ。

 彼女はそのままエリゼへと言葉を続けてくる。


「いつ剣を振ったのか見えなかった!! あんなの、あんなの見たことない! エリゼは伝説だ! 伝説の剣士様なんだ!」


「クレハも十分すごいわよ。こんなに頑丈でよく斬れる剣を作れるんだもの」


「本当か!?」


「えぇ、本当」


「わーい!!」


 ぴょこぴょこ。

 と、跳ねているクレハ。

 今日も元気で何よりだ……。


「さて、それじゃあ旅を続けましょう?」


「続けるぞ! このペースだと、夕方くらいにはクレハの街につくぞ!」

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