第二十六話 スライムマザーの遺産

 エリゼはスライムマザーを倒した。

 奴の強さは凄まじく、まさしくマザーにふさわしいものだった。

 となれば。


(レベルにだって膨大な影響をもたらしてくれるはず!!)


 などなど。

 エリゼはそんなことを考えたのち、自らのステータスを開く。

 するとそこにあったのは。


 レベル7

 剣技:一閃

 攻撃魔法:ファイア

 回復魔法:ヒール

 特殊魔法:触手


 なんか色々増えている。

 レベル7になっているのも大きいが、一番気になるのは最後者——特殊魔法『触手』だ。


(これって、他のスキルと明らかに毛色が違うわよね?)


 なんというか、モンスターっぽい。

 人間が使うスキルという感じがしないのだ。


(となると、このスキルって普通の成長では覚えないスキルなのかしら?)


 ならばいったい、どうしてエリゼはこのスキルを覚えていたのか。

 思い当たることはただ一つ。


(まさか、スライムマザーを倒したから入手でにた?)


 しかし、他のモンスターを倒した時はスキルを手に入れる気配すらなかった。

 となると。


(やっぱりマザー種ってところがトリガーよね。検証が必要だけれど、マザー種を倒すとそのマザーが使っていた代表スキルを奪い取れる?)


 このエリゼの推測が正しいのならば、エリゼが特殊魔法『触手』を覚えた説明もつく。


 なぜならば。

 スライムマザーがメインで使っていたものこそが、この『触手』だったのだから。


 などなど。

 エリゼがそんなことを考えていると。


 ハグッ。


 と、優しく温かく抱きしめてくるのはクレハだ。

 彼女はそのままエリゼへと言ってくる。


「エリゼにはクレハが居る……クレハでよければ、ずっとそばに居るからな……」


 これはアレだ。

 きっとクレハさん——エリゼが町の住民を失ったショックで黙っていると、未だに勘違いしているに違いない。


 流石に早急にフォローして方がいいに違いない。

 故にエリゼはクレハへと言う。


「私は大丈夫よ、クレハ」


「でも……」


「本当に大丈夫。それにもし大丈夫じゃなくとも、あなたが居てくれるのでしょう?」


「っ……あぁ!」


 言って、キュッとより強く抱きしめてくるクレハ。

 エリゼはそんな彼女へとさらに言葉を続ける。


「というわけで私はもう大丈夫だから、もう少し休んだらクレハの街へ行きましょう」


「……え?」


「そうね、明日あたりがいいかしら」


「ちょ、ちょっと待ってくれ! エリゼはいいのか!? この町に戻ってこれたのに、もういきなり旅に出て」


「あぁ、別にそれならいいわよ」


 たしかに、当初はこの町を拠点としエリゼが幸せに生きられる世界を作ろう。

 などと生温いことを考えていた。


 けれど、エリゼは復讐の中で知ったのだ。

 エリゼの幸せは復讐すること。


(これからは最幸の復讐と、その復讐相手を探すために旅をしないと)


 こんな小さな町を拠点にしている場合ではない。

 それに理由は後一つある。


「クレハは何度も私を助けてくれたし、そうでなくても友達でしょ? 今度は私がクレハの助けになりたいのよ」


「うぅ……エリゼぇええええ〜〜〜〜〜〜!!」


 言って、なおのことエリゼをギュッと抱きしめてくるクレハ。


(明日の朝くらいに出発でいいかしらね? 身体の調子は悪くないし……グダグダしていても仕方ない、それに新しい力を早く確かめてみたいしね)


 と、エリゼは一人そんなことを考える……のだが、頭を使うほどにとあることが深く心に刺さってくる。


 あまり興奮しなかった。


 スライムマザーに復讐したというのに、いまいち復讐した感がない。

 町長に復讐した時とは大違いだ。


(町長の時は気持ちよかったのに……なんでかしら)


 やはり対象への恨みが足りなかったのか。

 考えてみれば、スライムマザーにはある意味感謝していたまである。


(だって町長と住民を殺してくれたしね)


 イチャもんつけて復讐するのは簡単だ。

 けれど、それではあまり楽しくないのだ。


(うーん……気持ちのいい復讐って難しいわね)


 どうすればいいのか。

 エリゼはそんなことを、クレハにキュッと抱きしめられたまま考えるのだった。

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