第二十五話 エリゼと魔法の代償

「ん……ぅ」


 と、エリゼはゆっくりと差し込む日の光に目を開ける。

 すると見えてきたのは、木目の天井——どうやら、エリゼはヘッドに寝ているに違いない。


 それにしても、いったいどうしてこうなったのか。

 などなど、エリゼがそんなことを考えていると。


「あ、エリゼ! 起きたんだな!!」


 と、聞こえてくるのはクレハの声だ。

 なんだか、ものすごくデジャブだ。


「エリゼはすごいんだ! スライムマザーを倒した!! 一対一で戦って、スライムマザーに完勝したんだ!」


 と、エリゼの側へとやってきて、キラキラした瞳で言ってくるクレハ。

 エリゼはそんな彼女へと言う。


「完勝という割にはボコボコだったけれどね……」


「? エリゼはクレハが助けに行ったとき、どこにも傷を負っていなかったぞ!」


 と、首を傾げてくるクレハ。

 それを聞いて、エリゼはようやく頭がハッキリし始める。


(あぁ、そういえば最後にスライムマザーに自爆攻撃を仕掛けたんだったわね)


『ファイア』と『ヒール』を体内からして、爆散させてやったのだ。

 剣がなくなってしまったことで思いついた、かなりの苦肉の策だったが。


(まぁ、上手くいったなら万々歳ね)


 きっと、クレハが来た時にエリゼが無傷だったのは、最後に『ヒール』で回復したからに違いない。


(にしても何これ、頭痛が酷いわね…..)


 戦っている間はアドレナリンのせいで気がつかなかったのか、エリゼの頭はカチ割れそうだ。


(ひょっとして、魔法を使いすぎると頭痛がする?)


 だとすると、今後はあまり連射するのも考えものだ。

 スライムマザーを倒した後、エリゼが気絶した理由——あれもワンチャン頭痛の可能性がある。


(闘っている最中に気絶したりしたら、いくらなんでも事だものね)


 などなど。

 エリゼがそんなことを考えていると。


「でもエリゼ……町の人、残念だったな」


 と、暗い様子で言ってくるクレハ。

 彼女はそのままの様子で、エリゼへと言葉を続けてくる。


「町の人を守るために戦ったのに、みんな死んじゃった……でも、エリゼはちゃんと仇を取ったんだ!」


「……」


 やばい。

 クレハさん勘違いしていらっしゃる。

 そして言えない。


(こんな純粋な様を見せられたら、口が裂けても『町の住人が死んだのは、私の作戦が上手くいったからよ!』なんて言えるわけがないわ)


 だって見てみろ。

 これ。


「うぅ……ぐす、エリゼぇ」


 と、そんなクレハさん。

 泣いている。


 なんて優しい少女なのか。


 エリゼは改めて思う——自分などと友達になってくれた彼女を、ずっと大切にしようと。


 さて、いつまでも寝ているわけにはいかない。

 と、エリゼはゆっくりと身体を起こし、ベッドから降りて立ち上がる。

 すると。


「あら、この服……」


「エリゼ、裸で倒れてたから着せたんだ! その辺りの家から、エリゼに似合いそうなのを探してきた!」


 と、エリゼの言葉に返してくるクレハ。

 エリゼはそんな彼女へと言う。


「助けてくれただけでなく、服まで……本当にありがとう」


 クレハには恩を作るばかりだ。

 今後絶対に恩返しして行こう。


 などなど。

 エリゼはそんなことを考えたのち、姿鏡の前へと立つ。

 するとそこに写っていたのは——。


 金の長髪に碧眼、見慣れた自分の顔。

 まさしく村娘といった様子の地味で素朴なワンピースドレス。


(奴隷用のボロ絹以外の服なんて、何年振りに着たかしら……でも)


 悪くない気分だ。

 クレハは服選びのセンスも抜群に違いない。


「っ!」


 と、ここでエリゼは今更ながらに気がつく。

 エリゼはスライムマザーを倒したことによる、ある意味戦利品のようなものがあるのだ。

 それを確かめなければ。


 それすなわちレベル。

 エリゼはそれを見るために、すぐさまステータスを開くのだった。

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