第十八話 町長は……

「あ、れ……?」


 おかしい。

 おかしいおかしい。


 現在、時はあれから少し後。

 町長の前では摩訶不思議な光景が展開されている。


 町長は念のため、目を念入りに擦る。

 目がおかしくなっている可能性があるからだ。


 そして。

 彼はその後もう一度、前を見る……すると見えてきたのは。


「ぐぎゃぁあああああああ!?」


「ひ、ひぃいいいい——あ、がっ」


「や、やめ……やめてぇえええ——う、ぶっ」


「お、俺の腕……返、し……」


 と、聞こえてくるのは住民達の声だ。

 全員が『モンスターを殺せる武器』で武装した、最強の兵士。

 にもかかわらず。


「スゥウウウウ、ラァアアアアアッ!」


 と野太い声と同時、太く長く鋭い触手を体から生やすスライムマザー。

 奴は凄まじい速度で触手を振るい、凄まじい速度で住人達を貫き薙ぎ払っていく。


 おかしい。

 やはりおかしい。


 だって、町長も持っているこの『モンスターを殺せる武器』は、持っている者の身体能力も上げてくれ——。


 ビチャッ。


 と、町長の思考を断ち切るように与えられる感触。

 何かが頬についたのだ。


「……?」


 と、町長は武器を持っているのと反対の手を、自らの頬へと手をやる。

 すると、彼の手に伝わってくる温く湿った感触。


 町長はそれを掴み、目の前へと持ってくる。

 それは——。


「ひっ」


 と、町長は住民だった物を思わす投げ捨てる。

 さらに。


「う、ぅぉええええっ」


 ビチャ。

 ビチャビチャ。


 怖い。

 気持ち悪い。

 嫌だ。

 死にたくない。

 生きたい。


 ガシッ!


 と、何者かに掴まれる町長の足。

 見ればそこにいたのは——


「あ、ぅ……助けて、町長、助けて……」


 と、言ってくるのは死にかけの住民だ。

 はたして助けるとは、何から助けて欲しいのか。

 決まってる。


「い、嫌だぁああああああああああああああ! お、俺を巻き込むなぁあああああ!」


 言って、町長は住民へと剣を突き刺し、彼の力が弱まった隙を見て——。


 走った。


 スライムマザーに背を向け、町へと全力で走る。

 死にたくない。


(お、俺ののせいじゃない! 剣だ! この剣が不良品だったのが悪い! さっきの男も俺が殺したんじゃない! 剣だ! 剣が殺したんだ!)


 そもそも、もうこんな剣はいらない。

 走るのに邪魔だ。


「うぉああああああああああああっ!!」


 と、町長は剣を投げ捨て走る。

 生まれて初めてレベルの全力。

 流れる汗など気にせず。


 走って走って。

 走りまくって。


「はっ、はっ、はっ……っ」


 町長は町の門へと到着した。

 けれど、門は固く閉ざされている。


「だ、誰か開けろ! 俺を助けろぉおおおおおおお!!」


 言って、町長は門をひたすらに叩く。

 すると、門の上——見張り台の上から、一人の女性が姿を表すのだった。

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