第十六話 手の平くる〜ん!

 時はあれから数分後。

 レベル5の力を得ていたエリゼは、スライムたちをそれはもう一方的に虐殺した。

 皆殺しだ。


 途中から近づいて剣を振るだけの作業になり、何度かあくびをしてしまったくらいだ。


 さてさて。

 そうして現在、エリゼは怪我をした住民に『ヒール』をして回っている最中だ。


(よし、これで最後の一人っと……ちゃんと元気になりなさいよ、私の大切な復讐の種なんだから)


 などなど。

 エリゼがそんなことを考えていると。


「エリゼ!」


 と、聞こえて来る町長の声。

 エリゼが振り返ると、そこに居たのは町長——そして、町の住人達だ。

 彼らはエリゼへと代わる代わる言ってくる。


「ありがとう、エリゼ!」


「エリゼちゃん、ごめんね! 追放に賛同したりして本当にごめんね!」


「あ、あたしもごめん! 許してなんて言えないけど、これだけは言わせて……ごめん、それにありがとう!」


「おまえは俺たちの町の英雄だ!」


「おうさ! これからは一生この町にいてくれ!」


「そうだ、エリゼの銅像を町に建てようぜ!」


「いいねぇ!! みんなでやろうぜ!!」


 そして上がる声、声。

 こんなにまで言われると、さすがのエリゼとしても。


 不快すぎてやばい。


 今すぐ全員の首をはねとばし、死体を『ファイア』で消し炭にしたい気分だ。


(我慢よ、我慢しなきゃ。今が楽な方に逃げてはダメ! 後にもっといいことがあると、わかっているのならなおさら!)


 我慢。

 我慢我慢。


 と、エリゼが全力で自らを抑えていた。

 まさにその時。


「と、ところでエリゼよ。どうしてお前はモンスターを殺せたんだ?」


 と、言ってくるのは町長だ。

 見れば、その周囲の住民達も食い入るような様子で、エリゼを見てきている。


 それも仕方ないに違いない。

 なぜならば、何度もいうようにモンスターは不老不死。


 要するに不滅なのだ。


 それをエリゼが目の前で、殺してまわったのだ。

 さぞその秘密を知りたいに違いない。


(あは♪ そうだ! いいことを思いついた!)


 エリゼが考えたその内容。

 それは——。


「この剣のおかげよ。この二本の剣はモンスターを殺せる力を持っているの」


「な、なんだと!?」


 と、エリゼの嘘に食いついてくる町長。

 そしてその途端——。


 町長も住人達も、全員がエリゼの持つ2本の剣を注視してくる。

 エリゼには彼等が考えていることが、まるで手に取るようにわかる。


(私を殺して剣を奪い取るか、それとも私をこのまま味方に引き入れるか悩んでる……ってとこかな)


 現に住民達はチラチラと、町長の様子を伺っている。

 要するに町長がゴーサインを出せば、すぐに襲いかかってくるに違いない。


(ゴーサインを出し渋ってる理由は、私がこの剣以外にも特別な力を見せたからかしら?)


 それは『ファイア』と『ヒール』だ。

 あの二つはエリゼ自身の力の可能性がある——その場合、エリゼを殺せば損失だ。

 とでも思ってるに違いない。


(さて、どうでる? できるなら穏便に運んで欲しいわね……返り討ちにするのは簡単だけど、それだと結局すぐに殺すハメになるし)


 などなど。

 エリゼがそんなことを考えていた。

 まさにその時。


「エリゼ〜〜! 大変だ〜〜〜〜!!」


 と、聞こえてくるクレハの声。

 見れば、慌てた様子でエリゼへと駆け寄って来るクレハ。

 エリゼはそんな彼女へと言う。


「どうしたの? 外にもまたモンスターが現れたとか?」


「そうだ、モンスターだ!! でも、ただのモンスターじゃない!!」


「それってどういう——」


「すっごく大きなスライムがいる!」


 すごく大きなスライムとは、いったいどういうことなのか。

 とりあえず、一度見に行った方が違いない。

 エリゼはそんなことを考えたのち、町の外を見に行こうとする。

 けれど、それよりも早く。


「や、やばい……マザーだ」


 と、町の見張り台から聞こえて来る声。

 見ればそこに居る男が、町長へと慌てた様子で言う。


「スライムマザーだ! スライムマザーがこっちに向かってきてるぞ!!」


「な、なんだと!?」


 と、慌てた様子の町長。

 それも仕方ない。

 その理由は簡単だ。


(マザーと呼ばれるモンスターは、私も知ってる……本に載ってるもっとも注意すべきモンスター!)


 この世界に最初に現れたモンスターの母なる存在。

 全てのモンスターは、マザーから産まれるのだ。


 スライムはスライムマザーから生まれ。

 ゴブリンはゴブリンマザーから生まれる。


 無論、マザーではない通常のモンスターも子供を産むことはある。

 けれど、その確率は極めて低いらしいのだ。


 例えるならば。

 人間でいうと、そういう営みを千回しても、一回子供が産まれるかどうかといった確率らしいのだ。


 一方、マザーは単独でどんどん子供を産む。

 だからこの世界にはモンスターが溢れたのだ。

 そしてさらに。


(マザーは通常のモンスターより遥かに強力で、遥かに凶暴と聞くけれど——)


「お、終わりだ! 俺たちもう終わりだ!!」


 と、聞こえてくる住民達の声。

 その声は伝播する様に広がっていく。

 途端、エリゼは再び閃く。


「安心して! あの程度たいしたことないわ!」


 言って、エリゼは剣を掲げる。

 そして彼女は住民達へと言葉をつづける。


「さっきもいった通り、この剣はモンスターを倒せる力を持っているわ! それだけじゃない……この剣は持っている者の力を高めてくれるの!」


「で、でもよ。いくらエリゼでも一人でマザーを討伐するのは……」


 と、そんな弱気なことを言ってくるのは町長だ。

 エリゼはそんな彼へと言う。


「なら、この剣がたくさんあったらどう?」


「それはいったいどういう——」


「そこに居るクレハは、この剣を大量に生み出すスキルを持っているわ」


「なっ!?」


「大量に生み出した『モンスターを殺せる剣』で、住民みんなを武装させれば……」


「か、勝てる! 勝てるぞぉおおおおおお!!」


 と、一点希望に満ちた様子の町長。

 それを見たに違いない住民達の表情も、どんどん晴れやかで余裕に満ちたものになっていく。

 本当にバカな連中だ。


 くいくい。

 くいくいくい。


 と、引かれるエリゼの服の袖。

 見れば、そこに居るのはクレハだ。

 彼女はエリゼへと困った様子で言ってくる。


「な、なぁ。クレハにはその——」


「大丈夫。私の言う通りに、今は武器をたくさん作り出してちょうだいな」


 と、エリゼはクレハの言葉を断ち切る。

 彼女の言いたいことはわかる。


『クレハにはモンスターを殺せる武器なんて作れない』


 と、言いたいに違いない。

 それはそうだ。だって、それは住民達に希望を持たせるだけのエリゼの嘘なのだから。


 などと。

 エリゼはそんなことを考えたのち、住民達へと言うのだった。


「それじゃあ今から作戦を言うから、武器を受け取った人は私の言う通りに行動して……それとクレハは手が開き次第、破損した壁にバリケードをお願い!」

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