第十二話 事件の前触れ

「……っ!」


 と、エリゼは飛び起きる。

 いったい何が起きているのか。


(クレハを助けて、それで……それでどうなったの?)


 たしかいきなり意識が途切れて。

 それで。


「あ、エリゼ! 起きたんだな!?」


 と、聞こえてくるのはクレハの声だ。

 彼女はエリゼの方へとやってくると、そのまま言葉を続けてくる。


「毒だ! エリゼは猛毒にやられたんだ!」


「猛毒? あぁ……ひょっとして、ゴブリンの弓矢に塗られていたのね?」


「そうだ! でもエリゼはすごいぞ! ゴブリンの毒が効き始めるのも、普通よりずっと時間がかかった!! それに、その毒が治るのも普通よりずっとずっと早いんだ!」


 と、そんなことを言ってくるクレハ。

 きっとレベルのせいに違いない。


 レベルは身体能力が上がる。

 ということは、回復能力や免疫機能も上がるに違いないのだから。


 そういえば、レベルは今回の戦いで上がったのだろうか。

 エリゼはそんなことを考えたのち、ステータスを開く。

 するとそこにあったのは。


レベル5

 攻撃魔法:ファイア

 回復魔法:ヒール


 レベルが5になっている。

 そして、またも見慣れぬ記載が増えている。


(攻撃と回復ってくらいだから、戦闘に使えるものってことよね?)


 魔法がなんなのかは不明だ。

 けれど、とりあえず戦闘に使えるのでならばなんでもいい。

 できるならば、試せる場面があればいいのだが——。


 と、ここでエリゼは気がつく。

 それは自分の左足だ。


「……」 


 と、エリゼは左足へと目をやる。

 するとそこにあるのは、ゴブリンの弓矢を受けた傷だ。


(あれ? なんだかさっき受けた怪我にしては、ずいぶん治ってる気がするけれど)


 まぁ、きっとレベルのおかげに違いない。

 それはともかくだ。


(まだ完治してないのだから、この傷で魔法を試せるはず)


 使うのはもちろん回復魔法『ヒール』だ。

 回復と書いてある以上、傷を治す系のものに違いない。


 問題はその魔法を発動させる方法だ。

 けれど。


(とりあえず、こういうのは雰囲気で)


 と、エリゼは左足に手をかざす。

 そして。


「『ヒール』!!」


 エリゼが言った瞬間、手から迸る温かい光。

 それは数秒間瞬いたのに、ゆっくりと消えていく。

 エリゼはそれを確認したのち、左足の様子を見てみると——。


「すごい! エリゼは怪我を治せるんだ!!」


 と、まるでエリゼの代弁といった様子で言ってくるクレハ。

 エリゼはそんな彼女へと言う。


「今さっきできるようになったのよ。クレハもどこか怪我をしてるような、今すぐ治せるけど……どうかしら?」


「大丈夫だ! クレハの傷は全部擦り傷だったから、この二日で全部消えた!」


「そう……え?」


「?」


 ひょこりと首を傾げてくるクレハ。

 エリゼはそんな彼女へと言う。


「あなた今、この二日って言った?」


「言ったけど、なんでだ?」


「ちょっと待って、私ってどれくらい寝てたの!?」


「だから二日だ!」


 衝撃の事実だ。

 どうりでエリゼの左足の怪我が、『ヒール』する前からだいぶ治っていたわけだ。

 それにしても。


「寝ている間によくモンスターに襲われなかったわね、我ながら」


 「それなら大丈夫だ!」


 言って、少し離れた場所——洞窟の入り口へ続く通路を指差すクレハ。

 エリゼがそちらへ視線を向けると、そこにあったのは。


 バリケードだ。


 それも大量の剣や盾、そして槍で作られたかなり物騒なもの。

 あれほどの武器をいったいどこから集めてきたのか。


 などなど。

 エリゼがそんなことを考えていると。


「これがクレハの能力なんだ!」


 と、言ってくるクレハ。

 そんな彼女はエリゼへと、自らのスキルを説明してくる。

 それをまとめると。


 スキル:『刀剣創造』

  武器を生み出すことができる。


 要するに、クレハはどこからともなく、コストなしで武器を作れるわけだ。

 なるほど、それならばあのバリケードを作れた理由も納得できる。


「でもでも、モンスターは一匹もこなかったから問題はなかったんだ!!」


 と、言ってくるクレハ。

 エリゼはそんな彼女へと言う。


「一匹も? こんな好立地の洞窟に、二日間一匹もモンスターが寄り付かないなんてあるのかしら?」


「あるんだ! エリゼのおかげだぞ!!」


「私、何かしたかしら?」


「ゴブリンの群れをみんな殺しちゃったんだ! きっとエリゼはすごい強い気配を放ってる!! だから、他のモンスターが警戒してよって来なかったんだぞ!!」


「なるほど、そういうこと」


「それに理由があと一つあるんだ!」


 と、言ってくるクレハ。

 彼女はうむうむと頷きながら、エリゼへと言葉を続けてくる。


「ここに連れて来られる途中に見たんだ! 最近、この近くにある小さな町をモンスターの群れが狙っているみたいなんだ!!」


「近くの村って……」


 この近くにあるのはエリゼの居た村しかない。

 それにそもそも。


(そういえば、町のそばに居たわね……モンスター)


 エリゼが最初に襲われたスライムだ。

 きっとあの場所には他にもモンスターが居たに違いない。

 そう考えると、あのスライムには感謝だ。


(あのスライムから逃げたから、他のモンスターにやられなかった……とも取れるしね)


 にしてもだ。

 さっきのクレハの話は捨てておけない。

 理由は簡単だ。


(あの町は私が復讐する町……モンスターに殺らせるわけにはいかないわ!)

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