第十話 皆殺し

 エリゼはゴブリン達の方へと、一気に飛び出す。

 見た限り、ゴブリン達は少女に夢中な様子で、まだエリゼへ気がついていない。


(相手は五匹! さっきみたいに一匹一匹に手間取っていられない!!)


 殺す。

 即殺す。

 まず初めに狙うべきは。


(こいつ……っ!)


 少女に覆いかぶさって、汚いモノをおっ立てているゴブリンだ。

 エリゼがそんなことを考えたの同時。


 エリゼはついにゴブリンの群れの中に突入——当然、ゴブリン達からの視線が一気に注がられる。

 だがしかし。


 少女に覆いかぶさっているゴブリンは、その姿勢のせいでまだエリゼに気がついていない。

 狙い通りだ——今なら行ける。


(死ねっ!)


 と、エリゼはより強く一歩を踏み込む。

 続けて、彼女は持っている棍棒をゴブリンの後頭部へ、全力で叩き込む。


「ギャギッ!?」


 と、聞こえて来るゴブリンの断末魔。

 同時、棍棒に伝わってくる肉の骨を砕く様な感覚。

 次いで、件のゴブリンは壁へと吹っ飛んでいく。


(生死はわからないけど、すぐに立ち上がれるダメージじゃないはず! なら……っ!)


 と、エリゼは即座に次のターゲット——もっともそばにいるゴブリンへと視線を移す。


 きっとゴブリン達は突然の乱入者であるエリゼと、そんなエリゼの行動……さらには仲間が攻撃されたことに戸惑っているに違いない。


 無防備だ。

 これなら簡単に殺れる。


「あぁあああああああああああああああああっ!!」


 と、エリゼはゴブリンを威圧するため、さらには自らを鼓舞するために大声をあげる。

 同時、再度棍棒を全力で振るう。


 ドッ!

 メキャッ!!


 と、ゴブリンの顔面に減り込む棍棒。

 そして、不快な音を立てて飛んでいくゴブリン。


(二体撃破! あと三体もこの調子で——)


 と、そこまで考えた瞬間。

 エリゼの思考は途切れる。

 否、途切れさせられた。

 その理由は簡単だ。


「痛っ!?」


 左足に猛烈な痛みが奔ったのだ。

 けれど、左足を確認している暇はない。

 なぜならば、痛みのせいでエリゼは態勢を崩してしまったのだ。


(このままじゃ、倒れる……でもその前に!)


 と、エリゼは棍棒を握る手にさらに力を込める。

 そして、もっともそばにいるゴブリン……弓を持っているゴブリンめがけ——。

 棍棒を全力で投げつけた。


「ギィ!?」


 と、聞こえて来るゴブリンの鳴き声。

 直後、弓を持ったゴブリンが地面へと崩れ落ちる。


(倒した!? これで三匹目……でもっ)


 ついにエリゼは地面へと倒れ込んでしまう。

 そしてその衝撃で。


「ぁ、うぐっ」


 再び奔る左足の激痛。

 見れば、エリゼの左足には弓矢が刺さっている。

 きっと、先ほどの弓を持ったゴブリンにやられたに違いない。


「ギギ!!」


「ゲ、ゲゲ!!」


 と、まるでエリゼの隙をつくかのように飛びかかって来るゴブリン達。


「っ!」


 と、エリゼはなんとか立ち上がる。

 そして、彼女は左足に刺さった弓を引き抜き——。


「私を殺そうとするなら、死ねぇええええええええええええっ!!」


 言って、飛びかかって来るゴブリンの一方——その頭部に突き刺す。

 だがしかし。


 ボゴッ!


 と、もう片方のゴブリンによる攻撃を、エリゼはもろに受けてしまう。

 受けた場所は左肩。


(痛い、痛いっ。痛い……っ、けど)


 まだ動ける。

 動けるなら殺せる。


 けれど武器がない。


 棍棒はとうの昔に投擲した。

 先ほどの弓矢は、そこに転がっでいるゴブリンの頭部に刺さったままだ。

 ならば。


「っ!」

 

 と、エリゼはゴブリンの顔面を鷲掴みにする。

 けれど同時、エリゼの横腹を何度も棍棒で打ち付けてくるゴブリン。


 痛い。

 痛すぎてもう立って居られない。

 なので。


 エリゼは倒れた。


 ゴブリンの顔面を掴んだまま、地面へと倒れ込む。

 そして、エリゼはその勢いを利用して。


 ガッ!!


 と、ゴブリンの後頭部を地面へと打ち付ける。

 けれど、ゴブリンはまだ生きている。

 なんとかいった様子で、エリゼに攻撃しようともがいている。


 「死ね」


 と、エリゼはゴブリンの顔面を掴んだまま、その頭部を持ち上げ。


 ガゴッ!!


 と、ゴブリンの後頭部を再び地面に打ち付ける。

 すると再びもがくゴブリン。

 けれど。


 「死ね、死ねっ!! お願いだから、早く死ね!!」


 言って、エリゼはゴブリンの後頭部を何度も何度も何度も……何度も何度も何度も地面へと叩きつけまくる。


 ガッ。

 ゴッ。

 ゴギャッ!

 メキャッ!

 グシャッ、グシャッ、グシャッ!


 ……。

 …………。

 ………………。


 グシャッ。


 と、エリゼは最後に一回ゴブリンを叩きつけてみる。

 けれど、ゴブリンは動かない。


「……」


 エリゼはゆっくりと周囲を確認する。

 ゴブリンは全員動いていない。

 つまり。


「あは、あはは♪」


 エリゼの勝利だ。

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