第八話 VSゴブリン

「私の邪魔をする奴は、みんな殺してやるっ」


 言って、エリゼはゴブリンから奪った棍棒を構える。

 当然、ゴブリンは非武装なわけだが。


(油断していい状況じゃない……この洞窟はきっとゴブリンの住処なんだ!)


 だからこそ、この洞窟にはケイブバットが居ないのだ。

 ゴブリンはモンスターの中では強くないとはいえ、それなりに知性があると読んだことがある。

 となれば、ケイブバットを追い出すなどわけないに違いない。


(ゴブリンは群れで行動するって書いてあった。だから、きっとこの洞窟には他にもゴブリンがいる!)


 故に油断できない。

 先程は油断して、後頭部に痛烈な一撃をもらったのだから。


(もしも倒すのが遅れたら、ゴブリンの増援が来るかも……なるべく早く、できるなら一撃で倒さないとっ)


 それが無理でも、一撃で行動不能にするくらいはする。

 となれば、狙うべきは。


(頭——さっき私がやられたみたいに、その一点を狙う!)


 そしてやるなら即断即行。

 エリゼはそんなことを考えた直後。


 地面を全力で蹴り付け、ゴブリンとの距離を積める。


「ギッ!」


 と、態勢を低く待ち構えている様子のゴブリン。

 レベル3になった影響に違いない——エリゼには直感的に、そこからのゴブリンの行動が予想できた。


(っ……だめだ、このまま棍棒で攻撃してもきっと避けられる! だったら——っ)


 エリゼは変わらず棍棒を振り下ろす——ふりをし、途中でそれを止める。

 そして即座に左足による蹴りを、ゴブリンのガラ空きの胴体に繰り出す。

 要するにフェイントだ。


 結果、ゴブリンとしても予想外だったに違いない。

 エリゼの蹴りは狙った通りの場所へ、まるで吸い込まれるようにクリーンヒット。


「グゲッ!?」


 と、吹っ飛ぶゴブリン。

 まだだ、まだ終わらない。


 エリゼはゴブリンが態勢を整えるよりも先に、ゴブリンとの距離を詰める。

 そして——。

 

「やぁあああああああああっ!!」


 と、エリゼは我ながら慣れぬ気合の声を上げ、ゴブリンの頭部へと棍棒を振り下ろす。


「ギャッ!」


 と、声を上げるゴブリン。

 ピクピクの痙攣しているけれど。


(まだ生きてるっ!)


 エリゼは念のため、左手でゴブリンの胴体を抑えつける。

 そして、彼女は空いている右手に持った棍棒で——。


 ボゴッ。

 ガゴッ。

 グチャッ。


「死ね、死ね、死ね!!」


 と、ひたすらにゴブリンの頭を殴り続けた。

 そうして少し経った頃。


「はっ、はっ、はっ……勝っ、た」


 と、エリゼはグチャグチャになったゴブリンを見ながら呟く。

 完全勝利とは言えない。


 そもそも一撃で倒せなかった。

 正直後半、かなりテンパった。

 それでも。


「あはっ♪ ゴブリンに勝った。私……本当にモンスターを倒せるんだ!」


 そんなエリゼは束の間の全能感に満たされる。

 けれど、まだまだ安心できないし、油断もできない。

 この洞窟にはまだゴブリンが——。


「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!」


 と、エリゼの思考を断ち切るように聞こえる声。

 そう、声だ。


 水の音でも、モンスターの鳴き声でもなんでない。

 確実に人間が発した様な声が聞こえてきたのだ。

 それも洞窟の奥から。


「私以外に、この外の世界に——それもこんな洞窟に誰かいるの?」


 正直だいぶ怪しい。

 けれど、ここは将来的にエリゼの拠点になる洞窟だ。それにゴブリンもまだいる可能性が非常に高い。


「確認くらいしたほうがいい、よね?」


 と、エリゼはそんなことを考えたのち、ゴブリンの棍棒を手に洞窟をさらに進むのだった。


 

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