第七話 初めての拠点?

 時はあれから少しのち。

 現在、エリゼは先ほどの洞窟の中を進んでいた。


「薄暗くて、少し湿気があるけど……うん、やっはり水の音がする!」


 それに洞窟の天井は小さな穴がいくつも空いており、夕方にもかかわらず視界がそれなりに確保できる。

 これは大きい。


(これからここを進んでいくのに、真っ暗だと怖いっていうのもあるけど)


 ここを本格的に拠点とした時、これくらい明るくなるのなら、本当に住みやすい。

 これならばきっと、月明かりでもそれなりに明るくなるに違いない。


(もちろん、ランプとかをどうにか手に入れられたら、それに越したことはないけど……贅沢は言えないわ!)


 などなど。

 エリゼはそんなことを考えながらも、さらに洞窟内を進んでいく。


 それにしても平和だ。

 今のところケイブバットなど——。


「ゲゲッ!」


 と、エリゼの思考を裂くように聞こえてくる声。

 同時。


 ガゴッ。


 と、後頭部に響く衝撃。

 グラグラと揺れる視界。


「っ……あ、ぐ」


 気がつくと、エリゼは地面に倒れていた。

 視界は未だグラグラと揺れている……というより、意識を留めておくだけで精一杯だ。


(いったい、なに……が?)


 思考がまとまらない。

 言葉もうまく出せない。

 結果。


「あ、ぅ」


 と、エリゼはそんな声を出すことしかできない。

 だが、そんな間にも。


「ギギ、グゲ!」


 と、聞こえてくる何かの声。

 さらに——。


 ゴロ。

 ゴロゴロ。


 と、エリゼの身体は何者かによって、仰向けの態勢に転がされる。

 そしてこの頃になり、ようやくエリゼの視界はまともになってくる。

 結果、仰向けになった彼女の視界に入ってきたのは。


「ギギッ!」


 棍棒を持った緑の醜悪な人形モンスター。

 ゴブリンだ。


 スライムに次いで有名なモンスターと言っても、過言ではないに違いない。

 なんせエリゼが読んだどの本にも、たいていは紹介されていたのだから。


 そして、そんなゴブリンの凶暴性。

 さらには単純明快な目的も有名だ。


「ギギ、ゲゲッ!!」


 と、聞こえて来るゴブリンの声。

 奴は棍棒を捨てると、エリゼの上に覆いかぶさって来る。

 そして——。


 ボト、ボタ。

 ボタタッ。


 と、下卑た様子で口を歪ませ、その端から汚い涎をエリゼへと垂らし始める。

 さらには。


「い、いや……っ」


 そんなエリゼの視界に入ってきたのは、ゴブリンの下半身に聳え立つ身体に身わぬ大きく長い棒だ。


 ゴブリンがこれから何をしようとしているかなど、エリゼにだってわかる。

 現にゴブリンはエリゼの胸に手を伸ばそうと——。


「っ!」


 と、エリゼはなんとか動くようになり始めた腕を使い、ゴブリンを全力で自らの上から叩き落とす。


「ギァ!?」


 と、転がり落ち壁に頭をぶつけるゴブリン。

 奴は驚いた様子で、エリゼのことを見てきている。

 きっと抵抗されるとは思わなかったに違いない。


 このゴブリンが何百年、何千年と生きているか知らないが。

 最後に襲った人間はきっと、簡単にやられたに違いないのだから。

 けれど、エリゼは違う。


「まだまだだけど、私にはレベルがあるんだから!」


 要するに、エリゼの身体能力は常人より高い。

 当然、回復能力もだ。


 そうこうしている間にも、視界のふらつきもだいぶ取れた。


 ここからは反撃の時間だ。

 ちょうどいいことに、武器も転がっている。


「私の邪魔をする奴は、みんな殺してやるっ」


 言って、エリゼは落ちていた武器——ゴブリンの棍棒を拾い、奴へと向けるのだった。

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