第五話 モンスターのハンター

「やっぱり、殺せちゃった」


 と、エリザは昆虫モンスターの死体を見ながら呟く。

 スライムに続いて二体目だ。

 これはもう間違いない。


 この木の枝。

 もしくはエリゼには、モンスターを殺す力がある。


(さすがにこの木の枝が……なんてことはない、よね?)


 なんせこの枝は本当にただの枝だ。

 どっからどうみても普通。

 というか、すでに折れている。


(じゃあ、特殊なのは私? でもこれまで生きてきて、何も特別なことなんて……)


 一つある。

 エリゼはここで大切なこと思いだす。

 それは彼女が追放されることになったそもそもの原因。


 すなわち。

 労働系スキルが無いこと。

 そして、代わりにあるスキル『狩猟』という謎スキル。

 

 エリゼはその効果を改めて確認するため、誰にでも使える簡易魔法『ステータス』を使用。

 すると目の前に浮かび上がるのは、半透明の窓上の物体。

 そこに記載されているのは、エリゼが持っているただ一つのスキル——。


スキル『狩猟』

 狩りをすることができる。


 最初は存在意義がわからなかった。

 だって、この世界に野生の動物はもう居ないのだから。

 全ての野生動物はモンスターに殺された。

 となれば、狩りなんて必要ない。


 そう思っていた。

 エリゼだけでなく、周りの人間全ても。

 けれど。


(もしも、狩る対象が『動物』じゃなかったら? もしも、狩る対象が『モンスター』なのだとしたら)

 

 全てに説明がつく。

 エリゼがスライムと、昆虫型モンスターを殺せた理由に。


「私が、私だけがこの世界で……モンスターを殺せる?」


 いやまだだ。

 まだ決めつけるのは早い。

 などと、エリゼが考えたその時。


 ブゥウウウウウウウウウンッ。


 と、再び聞こえてるくる羽音。

 見ればそこにいたのは、先ほどと同じ種類の昆虫モンスター。


「っ」


 エリゼはモンスターを刺激しないように、ゆっくりとした動作で落ちている枝を拾う。

 そして、彼女はそれを新しい武器としてモンスターへと構える。

 その直後。


 ブゥウウウウウウウウウンッ!


 と、突っ込んでくる昆虫モンスター。

 けれど、その速度は。


(さっきより遅い!? これなら——っ)


 エリゼは昆虫モンスターの動きを予測し、そこに渾身の一撃を繰り出す。

 すると。


「ギッ」


 悲鳴をあげ、空中でバラバラに砕け散る昆虫モンスター。

 エリゼの一撃により絶命したのだ。


 もう間違いない。

 スキル『狩猟』はモンスターを殺せるスキルなのだ。

 けれど、彼女には新たなる疑問が出来てしまった。


(モンスターがさっきよりも遅かった? それだけじゃない、さっきよりも耐久力もなかった)


 なんせ先ほどの昆虫モンスターは少なくとも5回叩きつけても生きていた。

 それが今では一撃だ。


「スキル『狩猟』には、私がまだ知らない能力がある?」


 エリゼはそんなことを考えたのち、再びステータスを確認。

 そこで彼女はステータスに書かれている、見慣れぬ記載に気がつく。


 レベル2。


「なにこれ……『レベル』なんて聞いたことない」


 少なくとも、つい先ほどまではなかった。

 となると。


(この『レベル』っていうのは、モンスターを倒すことで取得した?)


 そして。

 順当に考えるなら。


(レベルを取得して、その数値を上げたからモンスターをさっきより簡単に倒せた……そう考えるのが自然、よね?)


 ここまでわかったことをまとめると、要するにこういうことに違いない。


 スキル『狩猟』はモンスターを倒せる。

 レベルが上がると、エリゼの身体能力が上がる。


(多分、レベルが上がる条件はモンスターを倒すで間違いないはず)


 もちろん、検証はまだまだ必要だ。

 けれどこれなら希望が見えてくる。


「外の世界でも生き残れるかも……」


 生きたい。

 死にたくない。

 そして出来ることなら。


(幸せに暮らしたい。お母さんとお父さんが、そう願ってくれたように)


 スキル『狩猟』と、レベルの概念。

 その二つを使って、外の世界に快適な家を作りのんびりと過ごしたい。

 だがその前に。


「あの町の連中に思い知らせてやる。お父さんとお母さんの……私の全部を使い潰して、あげく追放したあいつらに復讐してやる」


 全てはそれからだ。

 モンスターを殺しまくって、力を手に入れる。

 そして、エリゼの手であの町を潰す。


 全てはそれから始めよう。

 とはいえ。


「へっくしっ! うぅ……寒いし、喉も乾いてきたな。もう夕方近くになってきたし、暮らせる場所をなんとか確保しないと」

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