第二話 働けない奴は追放②

 ガゴンッ。


 と、聞こえてくる村の門が閉まる音。

 村はモンスターの侵攻を防ぐため、360度が壁により囲まれている。

 こうしてこの門を閉められた以上、もう門の中に入る手段はないというわけだ。


「もう戻る気なんてないけど」


 と、エリゼは閉められた門を睨みながら呟く。

 たしかにエリゼは働き手としては無能だった。

 けれど。


 親がエリゼのためにと残してくれた遺産を、町へとひたすらに貢いできた。

 それこそ優秀な働き手が二十人死ぬまで働いても、生み出せるかギリギリのものをだ。


 全ては両親のおかげだ。

 エリゼに生まれつき働く能力がないと分かった彼等は、死ぬ気で働いて莫大な遺産を残してくれた。


 エリゼが働けなくても、死ぬまで町で安全に暮らせるように。


 結果がこれだ。

 遺産は五年ほどで使い潰され、それからエリゼはずっと奴隷のような扱いを受けてきた。

 報酬として残飯を与えられ、何年も何年も陰湿なイジメを受けてきた。

 そして食糧難になれば、真っ先に捨てられる。


(許せない。お母さんとお父さんのためにも……そんなの絶対許していいわけがない)


 もう戻る気はない。

 などとさっきは言ったが、あれはうそだ


「いつか絶対に戻ってきてやる」


 言って、エリゼは閉められた門を睨む。

 いつか町の連中に償わせるのだ。

 奴らを追い出して、この町を自分のものにしてやるら。


 そして、いつかこの町を足がかりとし、この世界にエリゼが幸せに過ごせる楽園を作るのだ。


「そうよ、絶対に復讐してやる」


 そうでなければ、両親が浮かばれない。

 そしてもちろん、エリゼ自身のために——。


「スラァ!」


 と、エリゼの思考を断ち切るように聞こえてくるのは、そんな間抜けな声。

 振り返った先、そこに居たのは。


 ぴょん。

 ぴょん、ぴょん。


 と、間抜けに元気よく跳ねる物体。

 青色のゼリー状のモンスター。


 スライムだ。


 実物など見たことない存在。

 本などでしか知らない存在。


 かつて人類を追い込み。

 野生の動物を絶滅に追い込んだ災害。


 不老不死。

 斬っても焼いても。

 爆発させても何をしても死なない化け物。


「あ、ぅ」


 と、エリゼは思わず後ろに下がる。

 彼女は勘違いしていたのだ。


 復讐を決意している場合ではない。


 なんせ。

 壁の外に出た以上、エリゼはただの獲物——モンスターの食糧に過ぎないのだから。


「スラァ!」


 言って、エリゼの方へと跳ねてくるスライム。

 逃げなければならない。

 そうでなければ——。


 死。


 エリゼは迫り来るその気配に追われ、全速力でその場から走り出すのだった。

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