商談
牛尾 仁成
商談
いらっしゃい、今日はどんな御用で?
えぇ、えぇ、なるほど。確かにそいつだったら、ウチで取り扱っておりやすがね。でもお客さん、よくウチの店を見つけられましたねぇ。こう言っちゃなんだが、ホラこの店って目立たない路地裏にあるでしょう?
ははぁ、そうですか。ルトガーの奴からお聞きになられた、と。まぁ、ギルドに入ってはいませんが、取引が無い訳じゃあない。この世は持ちつ持たれつ、捨てる神あれば拾う神もいるってなもんで、なんとか細々とやっておりますよ。
それじゃあ、お代ですが13万7千になります。え? 高い? 何をおっしゃいますか、ウチはお客様第一ですよ。品質も保証しますし、何よりこの価格で希少価値の高いミスリル製はドコ探しても見つかりませんて。少なくともここらでは、ウチだけですわ。
いやいや、間違いなくミスリルですって! そこはナメてもらっちゃあ困る。私らゴブリンは非力ではありますが鑑定眼に関しちゃあ、ヴェリスの連中にも引けを取りません。……ま、まァ物を売る才能も無くは無いですがね、はっはっは。で、どうしますお客さん、13万7千でコイツを買うのか、買わないのか?
ふーむ、お客さんも粘りますね。いいでしょう! ワシも男だ。12万5千! どうです、これなら……
7万5千ッ!? ……おい、ちょっと姉ちゃん。いくら何でもそれは吹っ掛けすぎってもんだぜ。ルトガーの奴に何吹き込まれたのか知らねぇが、商人をバカにするのも大概にしやがれ。12万5千だ……ここからはビタ一文も負けられねぇ。さっさと出しな。あんたが、ここらをミスリル製の『
あぁ、そうだ。そうしよう。どこの馬の骨とも分からん、シブチンの泥くせぇメス人間ごときにくれてやることはねぇ。よし、ワシは決めたぞっ! あんたはもう客じゃねぇ、とっとと帰んな。これに懲りたら二度とゴブリンにナメた真似すんじゃねぇぞっ!
何? なんだよ、まだ何かあ……る…って……。
………おめぇ……そ、そいつを……一体どこで……っ! い、いや、違うな。ワシの目を誤魔化そうたって、そうは問屋が卸さねぇ。割符なんてのは偽物、と決めてかかるのがゴブリン界の相場よ。あんたもつくづく運が悪いな。『小鬼の割符』っつーのは、パチモンだらけなんだよ。そこいらで手に入る様な代物じゃねぇ。本物はもっと上の連中が新しい取引先を開拓するのに使うんだ。ただ、そうだな……そのパチモンも利用価値が無いって訳じゃねぇ。アンタみたいなマヌケを引っかけるにはちょうどいいオモチャだ。そいつを引き取ろうじゃあないか。しかも、こっちの『魔素蓄積器』の値段にも色を付けよう。10万と5百だ。どうよ、ワシの太っ腹ぶりは。これなら文句は言うまい?
え、あっ、ちょっ、ちょっと待て! 待て待て待て、本物じゃないからって燃やそうとするんじゃないっ! 待て、本当に待てって! おい、やめろ。……待て、早まるなっ! あぁ、割符が燃えるっ! こ、『小鬼の割符」がっ。君主階層御用達の証がぁ!
……ん? 燃えてない? 幻? うっ……お、お前、まさかこのワシをハメやがったのか! グゥゥ……、てめぇ……ナメた真似をッ! はっ、何だと? 割符を売るからコイツを8万8千で売れだと! 誰が、てめぇなんぞにっ……あぁ、ちょっと待てって。まだ売らないとは言ってねえじゃねぇか。ちょ、ちょっとその割符を見せてくんねぇかな? むぅ……、ま、間違いない。四色混合の輝石、側面の刻印に合わせた裏面の彫刻、1320年のレリーフだ。『小鬼の割符』、2百年ぶりにみたぞ、オイ。まさか、こいつも幻って言うんじゃねぇだろうな? もし、そうだったら、流石にワシにだって考えがあるぞ。
……うるせェな! 誰がケチなゴブリンだッ! よ、よし分かった。アンタの言い値で売ろう。8万8千だ、持っていきな! ケッ、とんでもない客だよあんたは。このオレにペテン仕掛けて、限界まで値切るたぁな。
……あぁ、それとコイツも持っていけ。ワシの商人としての誇りにかけて、そいつの動作の保証はする。だが、高価で複雑な物だから万が一今日から3年以内に動作不良を起こしたら、その証書を持ってキトにある『一眼土鬼』という工房に行け。直してもらえる。
……何だよ、さっさと行け。……ああ、そうだよ! そいつは値段の内に入ってねぇ。ワシの店のサービスだ。言ったろ? お客様第一だってな。
………………また、どうぞ。今後ともご
商談 牛尾 仁成 @hitonariushio
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