コント台本
コント「面会」
受付 (ボケ)
男 (ツッコミ) 30歳くらい
場面 病院の受付
受付のそばに男が近づく。
男「あの、面会に来たんですが」
受付「はい、どちらの患者さんですか?」
男「先週入院した、ヤマダタロウさんに」
受付「ヤマダタロウさん? どちらのヤマダタロウさんですか?」
男「えっと、どちらのって、住所とか?」
受付「はい、同姓同名の方が多くいらっしゃいますので」
男「そんなに多いんですか?」
受付「ええ、日本男性の代名詞ですから」
男「そりゃ、よく記入例とかに書いてありますけど。そんなに?」
受付「ええ。日本人に多い名字、全国12位ですから」
男「妙に細かいな! てか、詳しいんですね」
受付「こういう仕事をしていますと詳しくなります」
男「そういうもんなんですね。あ、で、ヤマダさんの住所ですか? 市内ですけど」
受付「それでは具体性に欠けます。市内のどこですか?」
男「えっと、たぶん駅前のあたり」
受付「町名は?」
男「ええ? ちょっと待って下さい。(携帯電話を取り出して)電話してきます」
男、ちょっと離れて。
男「あ、もしもし? 今病院。うん、ヤマダさん。でさ、なんか確認必要だから、住所もって言われて。そう、同姓同名の人がいるから、って。うん、ほら、棚に年賀状、それみて。あ、ウンウン。分かった」
男、再び受付に行き。
男「分かりました。中央です」
受付「中央? なん丁目ですか?」
男「二丁目です」
受付「チッ」
男「今、舌打ちしませんでした?」
受付「さあ。で、中央二丁目のヤマダタロウさんですね。はい。では、そのヤマダタロウさんは、女性ですか?」
男「いや、普通ヤマダタロウって言ったら男性でしょう? それに、さっき自分で『日本男性の代名詞』って言ってましたよね?」
受付「なんなんですか? その時代錯誤な発言は? 世の中には男女が分かりづらい名前や、男っぽい名前だけど女性、って、あるでしょう?!」
男「いや、まあ、確かにそうですけど」
受付「井伊直虎だって、女性ですよ?」
男「いや、何でそんな歴史上の人物? もっと『カオル』とか『マサミ』とか、紛らわしい名前が普通にあるでしょ?」
受付「で、ヤマダタロウさんは、女性ですか?」
男「いえ、男性です」
受付「はい、中央二丁目の男性のヤマダタロウさん、ですね。あ、独身ですか?」
男「いや、結婚してる、って、何、そんなことまで聞かれるんですか?」
受付「パーソナルデータの確認です。既婚、と。ちなみに何歳ですか?」
男「いや、むしろそっち先に確認しろよ! 60歳くらいですけど」
受付「中央二丁目、男性、既婚、60歳前後、ヤマダタロウさん、と。ところで、あなたとのご関係は?」
男「父の友人です」
受付「どんな?」
男「どんな? って、学生時代からの」
受付「もっと具体的に」
男「え? いや、同級生で、ずっと友達付き合いしてきたって」
受付「普通ですね。もっと胸熱な展開を用意してくれないと。なんか、ないですか?」
男「いや、特に。親父、何も言わずに、去年死んだし」
受付「それはそれは。惜しい方を亡くしましたね」
男「ありがとうございます。って? 今の会話の流れのどこから?」
受付「いや、ご存命であれば、お母様を巡って争っただとか、戦いの果てに友情が芽生えて、『俺たちはライバルだ! 親友と書いて、な』とか、お話が聞けたのかもしれないと」
男「いや、なに勝手に人の両親にベタなドラマ求めているんですか? 単なるお見合いですよ! うちの親は」
受付「そうですか。残念です」
男「いや、そもそもこのやりとり、面会のために必要なの?」
受付「いや、今、患者さんの個人情報保護がうるさいんで、面会時は確認しないといけないんですよ」
男「俺の個人情報保護は? なに親の馴れ初めとか、根掘り葉掘り聞かれてんの?」
受付「まあともかく、どうやらお知り合いらしいことは分かりましたので。少々お待ち下さい」
男「……はい」
受付「……あ、や、これは……」
男「な、何ですか?」
受付「……誠に、残念なお知らせなんですが……ううっ」
男「え? まさか! ヤマダさんに、何か? もしかして、急変?」
受付「実は、……ううっ! これ以上は、私からは……」
男「教えてくださいよ! 覚悟できてますから!」
受付「分かりました。中央二丁目在住、男性、60歳代、あなたの亡くなったお父様の普通の友人のヤマダタロウさんは! 昨夜!」
男「はい」
受付「外泊中ですね。お帰りは今日の夕方です」
男「はい?!」
受付「お帰りになったらお伝えしておきますので、お名前教えてください」
男「イマソレ?!」
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