第11話 目覚めたということで



 さて、その後もろもろどうなったかという話であるが。


 アイリーンは幼馴染と婚約した。

 彼はしばらく家の仕事で国を出ていた。戻ってきた直後にアイリーンに婚約してほしいと言ってきたのだが、アイリーンはそれを待って待って待ちわびていたので、二つ返事で受けることになった。

 デレデレな二人はデートと言って度々街に行くので、両親はさすがに頻度が多すぎると頭を抱えている。どうやらそれは幼馴染の家も同じのようだったが「愛する二人を引き裂こうなんてひどいわ」とか「俺たち愛し合ってるから」など、どこかで聞いた鳥肌もののセリフを連発するのである。

 問題はどう言う関係かということなのだ。

 一方的な思い込みの言葉は気持ち悪く感じる。当然かもしれない。

 

 オフィーリアもまた別の貴族の男性と婚約することになる。

 相手は国の中枢に顔の聞く優秀な政治家である。ただし独り身で、身分も子爵。資産的にも余裕がないという人物だった。

 オフィーリアも初めは「また金銭援助か」と思っていた。

 両親の勧めでのこのこ会ってみたものの、純朴そうだな。という印象をうける以外に特に思うこともなかった。

 ただ、この人物がそれはそれは優秀で、かつ評判もよく、そしてひたすらに初心で紳士だったため、すぐに彼に惹かれていった。


「これが恋かしら」

「僕が初めて?」

「……そうかもしれないです」


 正直にそんな会話をすれば、彼は真っ赤になってしまった。顔を背けて「うれしい」などというから、オフィーリアも赤くなってしまう。


「君が顔色を変えるのを初めてみたかもしれない」

「そうでしょうか。そんなことないと思いますけれど……」

「妹さんのことではそうでもない。でも、君が僕のことで顔を赤くしてくれるのは、初めて……だよね」


 おだやかに微笑む彼は嬉しそうである。オフィーリアは悪戯気に微笑んだ。


「あなたを思い出すと、こうなってしまうこと多くて」

「え?」

「だから、これが恋かしらって言ったんです。ね、どう思いますか?」


 彼は真っ赤な顔をしてオフィーリアの手に手を重ねた。ここで抱きしめてこないところが、オフィーリアの心をすこしだけ柔らかくする。そういう初心なところをみると、嬉しくなってしまうのだ。

 そんな会話をしたのは先日のことだ。

 アドランの時にはない、お互いに想い合うよい関係が築いていけるだろう。

 彼がすでに家を継いでいることもあって、結婚も秒読みかもしれないと、オフィーリアは密かに思った。



 ちなみにアドランはあのあと相当侯爵から叱られ、当然謹慎を含め、多くの罰をくらったそうだ。当然のことである。

 詳しい罰はなんだったのかは聞いていない。興味もなかった。 

 ただあれ以来彼の噂も何もオフィーリアは聞いていない。



 それから数日。オフィーリアとアイリーンはお気にいりの伯爵邸の庭園にいた。


「どうしました? お姉さま」

「田舎にでも送られたのかしら」

「誰がですか?」

「アドラン様」

「ああ」

 

 アイリーンがクッキーを口にほうりこむ。


「お姉さま。私ちょっと街で聞いた噂なのだけど」

「街で?」

「彼かとのデート中に聞いたの」

「ああ」


 アイリーンの婚約者を思い浮かべて、相槌を打つ。


「何を聞いたの?」

「それがね、叩いてほしいって言ったんですって」


 オフィーリアは瞬きを繰り返す。


「なんですって?」

「だからね、アドラン様なのだけど。彼、男爵だったか、子爵だったかの御令嬢に惚れ込んでいるらしくて」

「へぇ」

「その方にね。自分を叩いてほしいって言ったらしいの」

「…………はい?」


 いわく、叩かれて恍惚な表情をしていたそうな。


 ――というかそのご令嬢叩いたのね……。


 自分を棚に上げてすごい令嬢がいるものだと思うオフィーリアである。


 そのことがちょっとした噂になったらしく、侯爵からまたお叱りをうけたそうだが。それすらもなんだか嬉しそうだったという。一体どこから情報が漏れたのかは知らないが、なんとも形容し難い話である。


「もしかして、目覚めさせてしまったかしら」

「私もそれを思っていたわ、お姉さま」

 

 どうやらへんな性癖を目覚めさせてしまったらしい。

 2人して少しだけ反省する姉妹だった。




 



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お読みいただきありがとうございました。

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姉から妹に乗り換えたら殴られたって知りませんけど 日向はび @havi_wa

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