第8話溝口直人

「今夜は軽く飲んでくるから」

正樹はいずみが作った朝食を食べながらいった。

「またぁー?」

「今日は光一……めぐみの彼氏候補と話しするだけ。2人が意気投合すれば、オレは静かにフェードアウトするからさ」

「どんな、相手?」

「女癖の悪い、チャラチャラした男だよ」

「ふぅ~ん。危ないね」

「うん、めぐみは地雷を踏みかねん。おっと、7時だ。行ってくる」

「行ってらっしゃい」


朝、ロッカー室で経理課の溝口を待った。

8時過ぎに獲物が現れた。

「おはよう、溝口君」

「おはようございます。西主任」

「君は今夜は空いてるかい?」

「はい。空いていますが何か?」

「作業課の連中と飲まないかい?」

「いいですよ。僕の彼女も一緒でいいですか?」

正樹は、しまった!と心の中で後悔した。

「か、彼女?」

「はい、総務課の篠原こずえです」

「し、篠原さんとか~。いいよ。じゃ、5時半に一階のロビーで待ってるから」

「分かりました」


5時半。ロビー。

何故か呼ばれた田山と、ルンルン気分のめぐみは溝口を待った。

間も無く、溝口は篠原を連れて現れた。めぐみの顔が引きつっている。

金曜日なので、いつもの店は込んでると見て、正樹は和風ダイニング居酒屋の三嶋屋へ連れて行った。

5人は先ずは生ビールで乾杯して、めぐみと田山に溝口と篠原の紹介をした。

篠原には、作業課の3人の紹介を溝口がした。

夏と言えばはも。鱧の梅肉添えにビールが合う。スズキの洗いも旨い。


「あのう、溝口さんと篠原さんのご関係は?」

めぐみは何とか光を見出だそうと、質問した。

「篠原さんとは、一年前からお付き合いしています。社内のフットサル部で知りあって」

「そ、そうですか」

「回りからは、遊び人って言われてますが、溝口さんは優しくて、カッコいい男性です。あ、総務課では西主任と田山さんは人気がありますよ。お二人ともカッコいいし、仕事も早いって。だから、作業課の皆さんが3時に帰っても誰も文句言う人いませんからね」

「チッ、バレていたのか」

「はい。必ず早上がりの日は帰りのタイムカードが印字されてないので分かります。3人いつもの同時に」

「溝口君、キミの彼女は探偵になるべきだ」

2人は笑い、

「西主任、篠原さんは地元の県警の誘いがあったんですよ。これでも、柔道部だったんです」

「溝口君、これでもって何?」

「ごめん、ごめん」


「田山君は、もう、結婚してるんだっけ?」

「はい。息子もいます」

「歳はいくつだったかな?」

「28っス」

「若いなぁ、僕はもう38だからそろそろ落ちつかなきゃ。田山君と篠原さんは同い年なんだよね」

めぐみは1人、スズキの洗いを食べながらハイボールを飲んでいる。店員にもっと濃くして下さいって、注文している。

「めぐみさんは、恋愛関係はどうなんですか?」

「わ、私?毎日、忙しくて恋愛なんて全然。週末だけが楽しみ。正樹……主任さんや田山君と飲むのが楽しくて。私には、彼氏なんていらないよ、アハハ」

めぐみは顔では引きつった笑いだが、心はぼろぼろ。正樹の言う事を聞いておけば良かった。

20時。この飲み会は終了した。


「正樹君、泣いてもいい?」

「いいけど、バーに行こう。こんな夜はバーボンに限る」

「西さん。僕もお付き合いします」

「そうか、ありがとう。奢ってやる」

3人はカウンターに座り、ターキーを飲んでいる。

「私の方が、篠原さんより若く見えるよね?」

「……」

「……はいっ」

「私の方が、おっぱい大きいよね?」

「……うん」

「……はいっ」

「何で、私を選ばないのよっ!」

めぐみはターキーをぐびりと1口飲んだ。

「めぐみさんは、どんなタイプの男性が好きなんですか?」

田山は生チョコレートを頬張りながら尋ねた。

「理想は、面白くて、筋肉質で、優しい人」

「参ったなぁ、オレは面白くないし、子供もまだ小さいから、ごめんなさい」

「なぁ~に、ぶっこきやがる。オレたちみたいな既婚者を好きになるわけないじゃないか!」

「すんません」

「……それも、有りかも。既婚者でもいいわね」

「おいおい、オバサン。何考えてんだ。それだけは、神様が許しても、オレが許さねぇ」

「ダメか~」

「来月、ペンクラブ総会があってね、ホテルで盛大に飲み会があるんだ。僕は会員だから、参加するかい?若い男性作家がいるかもしれない。オレ、お世話になってる作家さんがいるんだ。羽弦トリスさんって方でね。連絡取って、独身、彼女無しの作家さんを紹介してもらおう」

「え、いいの?」

「任しとけ」

正樹は腕時計を見た。安物のG-SHOCKは22:12を表示されていた。

今夜はこの辺りで解散した。

心なしか、めぐみに覇気が戻ったような気がした。

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