第28話 全てを決心した朝

「……あの世界に繋がるゲートを開けるにゃ……?そんなの、旧神の御業にゃ……」


ミアが唖然としてぼやく。


「ゲートオープン」


僕達の前に、ワープゲートが現れる。

幸い、ゲートが開いた先は、誰もいない。


僕達は、慎重に、最後はじまりの世界への侵入を果たした。


--


まずは、軽く世界への攻撃を行い。

ミアの妹をおびき寄せる必要がある。


「灰燼と化せ、無垢なる木偶よ。地獄の業火、三千世界を焼かん……アークフレア!」


模合の魔法が発動。

森の入り口に命中。

そして……炎が散った後には、変わらぬ風景。


「この世界は、木々ですら強いですにゃ。生半可な魔法では、傷すらつかないですにゃ」


「兎中くんの支援を受けた私の魔法は、迷宮主すら一撃なんですけど!」


ミアのツッコミに、模合が叫ぶ。


「滅せよ!」


ミアの魔法が発動。

シンプルな、聖炎。


半径数百メートルの森が消失。

延焼しないのが、メリットでも有り……デメリットでもある。


「……流石、聖女だね。ミアさんの力は、本物だ」


龍二が呻く。

大聖女ですけどね。


「次は私だねー。ほい、火柱」


ごおおおおおおおう!


杏那の放った炎。

森に着弾、炎上、そして。

数旬の後には、ただの焼け野原が広がる。

その魔力は消失せず、大地すらも焼き続ける。


「「「「!!?」」」」


ミアまで、驚きの声を上げる。


「ほい」


ごうっ!


別の方角に水球が着弾。

膨張、そして。

大洪水が起き、木々を、動物を、大地を、飲み込み、流していく。


「……まあ、このくらいはやらないと、世界へのダメージはないのにゃ。それを一瞬でやるのは流石にゃ……」


ミアが、半ば呆れた様な声を出す。


「……この力なら、神器にも対抗できそうだにゃ」


「言っておくけど、羽修の力で増幅されているからだからね?」


杏那が念の為、という風で釘を刺す。

まあ、事実だ。

普段からあんな力を出せばすぐ枯渇するし、威力も増幅されている。

僕の強化の力に慣れ、効率よく使っている。

それも大きいのだ。


ぼう


虚空が割れ。

次々に、戦艦が現れる。

妹とやらの帰還だ。


ざ……


機械兵が、無数に降りてくる。


「……お姉様……どうやってここに……」


ラナ。

醜悪な怒りを浮かべ、ミアに似た少女が降りてくる。


「相手の世界へ早い段階で侵攻する。異世界戦の定石にゃ。もっとも、この世界では力の補正がかからないので、あまり意味はないけどにゃ」


「……言いたいことは色々有りますが……何ですか、その変な喋り方は。異世界訛りでしょうか?」


「何を言ってるにゃ。この語尾は、猫人のアイデンティティにゃ」


「猫人って……!人です、人!一緒にいる家来だか奴隷だかが、猿人です!」


「郷に入っては郷に従えにゃ。あと、一緒にいるのは友達にゃ」


「……人としての、そして王族としての誇りを捨てた様ですね。汚らわしい……」


ラナが、釣り上がった目で言う。


「とにかく、ミアちゃんは渡さないし、地球への暴挙も許さないわ!馬鹿な真似は止めないと、後悔するわよ!」


栗原が叫ぶ。


「控えろ、下郎。お前の様な弱き者に、発言権などない!」


ラナが叫ぶ。


「栗原さんの言う通りだよ!」


「静まり給え、荒神よ!脅しても無駄です!我が軍の力は、貴方を調伏するに足ります!」


杏那の言葉に、ラナが叫ぶ。

うわ、人間扱いされてない。

でも、確かにあの力は膨大だ。

兵士1体と杏那なら、杏那が圧倒する。

が……


兵士の数は数万。

更に、戦艦そのものも、相当な力の持ち主。

あれが、神器。

あれが、調停機関。


認めよう。


確かに、異世界戦争の抑止力というだけはある。

恐らく、ラナが、私利私欲の為に使っているから、あの世界では出てこなかったのだ。


まずは交渉で事情を聞き出し。

妥協点を探る。

それが難しければ……一度引いたほうが良さそうだな。

少なくとも、龍二達をあの頃の強さにまで引き上げたい。


……ミアの顔が厳しい。

自分だけが犠牲になれば……そういう顔にも見える。


「ラナさん。君は、何を望んでこんな事を?」


「愚問ですね。私の人生を滅茶苦茶にした、ミアお姉様……貴方が存命で、かつ、幸せそうにしている……そんな情報を得たら……その幸せを潰す、それは当然ですよね」


「……滅茶苦茶にした覚えはないにゃ……?」


「黙りなさい!いつも皆から愛され、頼られ、褒められ……そして、陰日向と、いつも姉と比べられる私を庇い、愛情を注ぎ……」


……それは良い存在なのでは……


「貴方に分かりますか!?きっと貴方も、私を心の中では馬鹿にしていると考えてしまう、心の闇が!私の方がちやほやされたいという欲望が!貴方に力が劣るという事実により傷つけられる自尊心が!全てを決心した朝、きっかけとなった……小指をベッドの脚にぶつけた際の痛みが!」


「小指の痛みのせいでクーデター起こされたにゃ!?」


ミアの悲鳴。


[真正サイコパスですね。やばいですね、私、わくわくしてきました]


リアがつばを飲む音をさせる。


「お姉様……お姉様のせいで……小指の痛みは、お父様とお母様の死にも繋がったんです!自らの罪に慄きなさい!」


「ラナが小指をぶつけたのに、私は関係ないのにゃあああああああああああ!」


ミアが叫ぶ。

やばい、あいつ。

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