第27話 疼く右手
「さて、学校もやめたし。遊ぶよ!」
僕は、高らかに宣言する。
「ダンジョンには行かないにゃ?」
「お金はあるし、レベルも上げる必要がないしね。ここずっと、気を張り詰めて殺し合いしかしてなかったからね。せっかく平和な世の中なんだ、のんびりすごしたいよ」
「まあ、それには賛成かな。もう一生分働いたと思う」
「昨日海に行くと言ってたにゃ。地球で海に遊びに行った事は無かったにゃ」
「うん。まずは……豪華客船に乗って、数か月かけて世界をクルーズしようかと」
「待つにゃ。発想が、定年退職した老夫婦のそれにゃ」
「んー。ミアは早々にリタイアしたけど、私たちはあのあと18年程戦ってたしねー」
「にゃあ……それを言われると……」
実質定年退職で隠居でいいと思うんだ。
『ご主人。私に乗って、色々な風景を見たいと願った……あの頃の夢を忘れましたか?』
はっ。
そういえば……
リアもかなり大きくなったし、快適にもなったし。
リアに乗って宛もない旅とか、最高では!
「リアは、ゆっくり外国とかまわれるの?」
杏那の問いに、
『地球上を飛行する能力は有りませんが、異世界の山紫水明の地を案内できます』
「異世界はなしだ」
「異世界はなし」
「異世界はダメにゃ」
3人の声がはもる。
異世界への行き来をする事で、えらい目にあった後だしな。
「とにかく……遊ぶよ!」
海に。
山に。
花火大会も参加して。
平穏な日常を満喫。
そんな日が続くと思われたけど。
それは、甘い考えだった。
それは……突如、やってきた。
巨大な戦艦が、異次元より襲来。
黒いパワードスーツを着た兵士達。
明らかに……侵略者。
彼らは……告げた。
明日の正午に、ミア・ラムス・グランデリオを連れてこい、と。
そして、3日3晩、拷問を与えた後、殺せ、と。
なぜ……?
そもそも、なぜミアの事を知っている?
世間には、ミアの事は知られていない。
みんな、何を言われたか分からず、困惑しているだけだ。
だが……
龍二、栗原、模合も僕の家に集まり。
対策会議を開く。
「んー。この面子で揃って対策会議、か。防衛軍の総司令部を思いだすね」
「だよね」
杏那がぽつりと言い、僕も頷く。
「「「防衛軍??」」」
龍二達、3人が疑問符を浮かべる。
そう言えば、知らないんだっけ。
「あれは……ラナにゃ」
それって……
「革命で、ミアを逃がしてくれた、妹さん?」
「そうにゃ……何故にゃ……しかも、王家しか扱えない筈の、神器が……」
あの船や兵士の装甲の事だろうな。
「妹さんが裏切ってたとか?」
杏那の言葉に、ミアが目を見開く。
「にゃ……でも……そうなると、辻褄が合うにゃ……成功する筈のないクーデターが、成功したのも頷けるにゃ……」
「クーデター??」
龍二が話についてこれていない。
記憶がなくなっているからなあ。
「で、どうするんだ?ミアの世界に攻め入って、破壊しまくる訳にもいかないんだよね」
「羽修!?」
「「兎中くん!?」」
僕の口にした定石に対し、声を上げる龍二達。
平和ボケしすぎだと思うよ。
「それは最後の手段だにゃ。実は、私のいた世界は特殊で……異世界から侵入しても、γ補正がかからないにゃ。特殊な装置で召喚すれば話は別ですが……それも、神器に対抗できる程の補正じゃないにゃ」
……実は強いのか、あいつら。
「あれが……異世界侵略に対する抑止力……裁定の神器なのね?」
「そうにゃ」
龍二達の頭の上の疑問符がどんどん増えていく。
「この……右手の封印、解くべきか……」
より混乱させる為、適当な事を言ってみる。
「羽修……アレを使えば……今度こそ体を乗っ取られるよ……」
杏那が心配そうに言う。
乗っかりだ。
「……何があったんだ、お前ら」
「あの18年に何があったんですにゃ……」
龍二だけではなく、ミアまで困惑した声を出す。
「「18年?」」
栗原と模合が更に疑問符を増やす。
「まあ、冗談はともかく……向こうの世界に乗り込んで、そこで話を聞く。それで良いか?」
「にゃあ。あの世界は、外からは入れないにゃ。唯一可能性があるとしたら、私と羽修が出会ったあのダンジョン……」
ああ、あの高難易度(笑)のダンジョンだな。
「良くわからないけど……妹さんは、こっちの世界に来ているのよね?」
栗原が尋ねる。
「来ているけど……地球を壊す訳にもいかないし、向こうの世界で少し暴れたら、すぐに戻ってくるだろ?」
「なんでお前は手慣れた感じで何を言うんだ」
龍二があきれた様な声を出す。
「羽修は正しいにゃ。世界強度が、あの世界は段違い。向こうの世界に行った方が良いと思うにゃ」
「……ミアさんがそう言うなら」
龍二が、引き下がる。
「つまり……そのダンジョンから異世界に行けば良いんですね?」
模合の確認に、
「いや、キャプテンのスキルでゲートを開く」
別にミアと出会ったダンジョンでもいいんだけど。
結局繋がってなければ無駄足になるし。
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